<向学新聞2012年1月号記事より>
修論以外も選択でき博士に
博士論文研究基礎力審査導入へ(文部科学省) 研究テーマ早期特定防ぐ
文部科学省は、修士論文を作成せずに修士号を取得できる「博士論文研究基礎力審査」を導入する方針を11月24日に固めた。専門分野と関連分野を含めた幅広い知識や能力を問う筆記試験と、博士論文研究の動機や計画に関する口頭試問の2段階の審査を課す。博士号取得を目指す大学院生が主な対象となる。大学院の早期に研究テーマが特定されてしまうのを防ぎ、広い視野と独創性を備えグローバルに活躍できる博士人材の育成を目的とする。
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博士号は前期2年、後期3年の博士課程を経て取得するのが一般的だが、現行の大学院設置基準では、前期課程は修士課程と同等に取り扱われる。そのため、博士後期課程に進むには修士論文を提出して審査に合格することが必要。今回の措置は、修士論文の他に「博士論文研究基礎力審査」を通過することで修士号を取得できるよう同基準を改正するものだ。博士後期課程に進まず就職する学生も多いため、従来の修士論文提出という条件も継続して認められる。基準改正後、実際に「博士論文研究基礎力審査」を導入するかは各大学の方針に委ねられる。
これまで産業界から博士人材に対して、「専門分野は詳しいが、応用が利かない」といった声が多かった。修士論文作成のため、大学院の早い段階で研究テーマを特定しなければならなかったことや、博士後期課程では個々の研究室での活動が中心だったことが背景にある。「博士論文研究基礎力審査」を導入することで、広範なコースワーク、分野を越えた研究室のローテーションなどを実施し、専門分野を越えた体系的な教育を目指す。
米国の大学院は基本的に博士号の取得を目指した課程となっており、一貫して質が保証された教育を確立する仕組みがある。学生が博士論文作成に着手するまでに、基礎知識、研究計画能力、コミュニケーション能力がコースワークを通して修得できているかを審査する「Qualifying Examination」が広く導入されている。博士論文研究基礎力審査はこれに相当するものだ。
UCバークレー(米国)の物理コースでは、学部レベルの知識が深く習得できているかを問う事前試験に合格した後、研究分野などに関する口頭試験を行う「Qualifying Examination」に合格しなければ、博士候補生になることができない。メリーランド大学(米国)機械工学コースでは、どの分野に進んでも自ら必要となる研究テーマを設定できる能力を身につけさせるため、受験者のリサーチワークとは異なる分野のテーマを指定し口述試験を行う「Qualifying Examination」を実施している。今回の措置で米国のように、海外の大学で博士論文研究基礎力審査に相当する審査を経ることで、修士学位と同等以上と認められた場合は、日本の博士後期課程の入学資格を得ることができる。従来の修士論文とは別に、博士後期課程に進む新たな選択肢ができた形だ。
日本では、博士課程がある大学院の専攻数は2500以上あり、そのうち前期・後期の区分制を敷くのは約7割に上る。博士論文研究基礎力審査を導入することで、各大学は育成する人材像の設定や、プログラムの編成など、社会で広く活躍できる人材を輩出するための総合的な改善が強く求められている。
2011年の12月初旬から2012年1月初旬まで国民の意見を募集し、2012年度からの適用を目指す。
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