Top向学新聞>中国の留学動向と日本語教育の将来 対談 修 剛 氏×佐々木 瑞枝 氏 2019年11月1日号

中国の留学動向と日本語教育の将来


対談 修 剛 氏 × 佐々木 瑞枝 氏


学びたい学問を求めての日本留学が増加

留学生の興味関心の内容がハイレベルに


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 中国は世界最多の日本語学習者を抱える国だが、中国内の就職状況にはどのような変化がみられ、これからの日本語教育はどのような方向に向かうのだろうか。中国日本語教育研究会名誉会長の修剛氏と、武蔵野大学名誉教授の佐々木瑞枝氏が対談を行った。


写真右:修剛(しゅう・ごう)
中国遼寧省丹東市出身。1982年遼寧師範大学日本語文学学士、1984年天津外国語大学日本語学修士。2008年武蔵野大学名誉博士。元天津外国語大学学長。2011年に中国日本語教育研究会会長として2000人規模の世界日本語教育研究大会を主催。現在、中国日本語教育研究会名誉会長。

写真左:佐々木 瑞枝(ささき・みずえ)
京都出身。横浜国立大学教授を経て武蔵野大学大学院教授、現在、武蔵野大学名誉教授、金沢工業大学客員教授。専門は日本語教育学。主な著作に『日本語を外から見る』(小学館)、『クローズアップ日本事情15』(ジャパンタイムズ出版)他多数。NHKテレビ『日本語なるほど塾』などに出演。



 
日本語専攻生の就職は難化


(編集部)中国内の変化と日本留学の動向、日本語教育の将来展望についてお伺いします。

 天津外大も協力している国際交流基金の調査結果がもうすぐ発表されますが、中国の日本語学習者数は100万人を超えると思います。内訳は大学の日本語学科の専攻者が約24万人、大学での第二外国語としての学習者が約36万人、その他中学・高校や社会人の学習者等です。
 日本語専攻の学生はやや減少していますが、これは就職の現状と関係があります。以前は日本語専攻生は卒業すれば日本企業に容易に就職できていましたが、今は就職が厳しくなってきているので、第二外国語として学ぶ人のほうが少し伸びています。一番嬉しい現象は中学・高校で日本語を学ぶ学生が増えていることです。上海、浙江省、湖北省など中部地域や杭州あたりで伸びています。


佐々木 それはオーストラリアと似てきていますね。なぜ増えているのでしょうか。


 以前中国では英語学習ばかり考えていましたが、どうしても英語に向いていない学生もいるからです。また、アニメなどどうしても学びたいことがあって、自分で中学・高校時代から日本語を熱心に学び、将来の目的が実現できる学校に留学する人が増えてきています。
 ですから最近は4年制大学の日本語専攻科の教育内容も、最初の2年は日本語を学び、あとの2年は日本語でビジネス、観光、AI関連等を学ぶといった方向へ変わってきています。これからは、新しい学問があるから、中国では学べないものがあるから日本へ留学する人が増え、留学生の質が上がってくるのではないかと思います。


佐々木 私は両極端になると思います。一つは今、日本語学校告示基準にヨーロッパ言語共通参照枠A2レベル以上という低い基準を設けて、たくさん入れようとしている層の人達。もう一方に日本語能力試験N1レベルの、大学で専門を日本語で学ぶ人たちがいますが、そのどちらかに分かれていくと思います。日本語学校もどちらの人たちに教えるか選択を迫られるでしょう。


 いま中国の学部を出て日本の大学院に入るケースが増えていますので、中国の大学日本語専攻の教育内容も語学にとどまらず、学生の将来に関する情報やメッセージを含むものにする必要があります。


佐々木 私が2017年に出した「クローズアップ日本事情15」という本は今年で3回目の増刷になりましたが、この本は環境問題や政治など様々な事を問題意識を持って書いているハイレベルな内容の本です。ですから私は出版社に「この本はレベルが高いのであまり売れ行きは期待できないと思います」と言ったのですが、実際には、現在、多くの大学や日本語学校で教科書として採用されています。それは結局いま先生がおっしゃったように学生の皆さんのレベルが高くなっているのです。
 私はこれからの日本語学習では「調べる、比べる、話し合う」ということがキーワードになると思います。何かあったら自分で検索して調べる。今と昔、日本と世界を比べる。自分一人で勉強するのではなくグループやペアで話し合う。それが学ぶスタンダードになっていくと思います。教科書の受け売りを受動的に受けているだけでは学生の成長に限界があるのです。



全人教育としての日本語教育


 中国の教育も以前は「先生がいかに教えるか」が中心でしたが、今後は「学生にいかに学ばせるか」を中心にすることを考えています。中国教育部は大学日本語専攻の教育の共通スタンダードを作りましたが、その作成には私が携わりました。今後は、日本語を学ぶことを通じて思弁能力と異文化コミュニケーション能力を習得させることを大きな目的として学生を養成する計画です。日本語での情報収集能力や考える能力をつけて、日本語以外の仕事をしてもいいのです。実際、中国の日本語専攻科卒業生の多くはまず公務員試験を受けますし、ある大学の専攻科では修了生の半数は日本語以外の仕事に就いています。
 ですから日本留学の目的も多様化し、例えば政治学を学ぶ人なども増えていくと思います。昔の中国人留学生は日本に来て社会主義を学んで中国に持ち帰っていました。魯迅の時代のように、これからは日本語そのものを学ぶよりも日本語で何かを学ぶ時代です。イノベーション能力も含めた全人教育としての日本語教育を目指したいと考えています。
 例えば私の大学院でのある教え子は、上海会計学院で会計を四年間学び、大学院は私が指導する同時通訳コースに入りました。彼女は筆記試験でも口答試験でも非常に良い成績を取りましたし、子供時代からアニメが好きだったのでとても良い発音をしていました。卒業後には引く手あまたで良い就職ができたのですが、それは言語能力だけではない専門知識を持っていたからです。学習能力の高い学生は自主的・能動的に学ぼうとする気持ちをもっています。そういう留学生が今後増えていくのは良いことだと思います。


◆書籍紹介
『クローズアップ日本事情15』
ジャパンタイムズ出版刊
佐々木瑞枝著

画像の説明

日本社会を理解するための興味深いトピックと役立つ会話例を収録している。巻末に語彙リストと英訳付き。

トピック一例
・古民家ブームから 見えてくること
・3Rとは
・人工知能が産業に 与える影響
  など

 



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