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李 廷江 氏 
(中央大学 法学部教授) 


大学の教育の中身が問題  産官学で人材育成の推進を


――留学生受け入れ30万人計画の推進に必要なことは。
  日本の大学は、変化する国際社会に従来のカリキュラムが適応しているかどうか検証し、時代遅れとなっている部分は見直す作業が必要です。留学生の受け入れはカリキュラムの再編成を促し、教育改革につながるメリットがあります。教える側に新しい次元の知識を要求するので、旧来の大学教育への大きな問題提起となりうるのです。「30万人」という政府方針には単に従うのではなく、大学と日本社会が自分たちで決定したのだという合意を持つべきでしょう。
  良い大学さえできれば、来る留学生は30万人どころではなくなるはずです。日本の大学の教育の中身、水準が問題なのです。世界に門戸を開く優れた大学を日本に作り、留学生が「日本に来たからこそ求めるものが得られた」「求めていた以上のものが得られた」と満足できるようにすることが大事です。
  人々が何を学ぶ価値があるものと考えるかは、時代とともに変わってきました。今までは欧米一辺倒で、社会の発展といってもほとんどの人は制度やGDPなど物質的なものとして理解していました。しかし文化に関しては、発展した文化と発展途上の文化などというものはなく、途上国にも学ぶべきものはたくさんあるのです。今までの欧米主導的な19世紀から続く物質主体の価値観の枠組みから脱却しなければなりません。
  日本の大学が国際社会で主導的な役割を果たしていくためには大学自体の国際化が必要です。まず海外でどのような教育が行われているのか理解し、それに基づいて有能な運営スタッフを育てることが課題となります。単に海外拠点を作れば良いわけではなく、総合的な組織改革が求められるでしょう。
  留学生の卒業後を見据えた人材育成に関しては、産官学が共に取り組み、社会に貢献できる人材を育てるよう投資していくべきです。日本の企業風土は独特ですので、海外で仕事を経験したグローバル人材は、日本企業に就職してもわざわざコストをかけて留学したメリットは出てこないと考える人もいるようです。日本の企業風土が、グローバル人材を獲得できない一因となっていることは否めません。一方グローバル企業には、日本の企業文化に破壊的に作用する一面もあります。人的資源を最大限に生かす方法を考えると、日本企業が伝統的に身に着けてきた経営のスタイルをすべて変えてしまうことはできません。改革は、制度・社会・人間の意識の総合的改革と捉え、現代という時代への的確な認識に基づいて行われるべきです。例えばアジアが共生するという新たな社会像の提示も、特定の文化のサイドから行うべきではなく、メリットの共有、人的資源の共有の視点から考える必要があるのではないでしょうか。


リ テイコウ
1977年清華大学日本語学科卒。1988年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。亜細亜大学国際関係学部助教授、教授を経て中央大学法学部教授、現職。清華大学日本研究中心教授。



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