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符 儒徳 氏 
(東京女学館大学 国際教養学部准教授) 


大学は人材育成の質保証を 実地での学びに留学の意義

――30万人計画の課題とは。
  留学を商品やサービスとして見る視点がもっとあっていいように思います。商品を提供する側は、客にあるイメージを与えられるよう最初にデザインするものです。しかし現在の日本留学は、実際に何がどういう形で勉強でき、どういうところに就職できるのかといった具体的な受け皿の姿が留学生側から見えにくくなっています。もっと中身を理解しやすいようビジュアル化することが必要です。「この大学ではこういう留学生を募集しており、卒業後はこういう道がある」と明確なビジョンとプロセスを示すことができれば、留学生も喜んで学びに来るでしょう。そして、日本政府も米国のように1~2年の奨学金をオファーできる環境を大学と組んで整え、留学生の意識を高められるような受け皿をうまくデザインすべきです。日本で本当にイメージ通りのよい経験ができ、落ち着いて勉強できるのであれば、口コミも良くなり、商品自体が新たな需要を創造して、留学生市場はますます大きくなっていくでしょう。
  最も重要なのは、大学がどういう授業を提供できるのかという中身の問題です。いま教育の質保証が問題になっており、実地での教育とeラーニングとの違いがどれほどあるのか判断がつかない場合があります。留学生がみな最後に考える問題は、「学んだ後にどこまで自己のレベルが向上したのか」「海外に行って本当によかったのか」ということです。大学は「こういう人材を育てることができる」と責任を持って人材の質保証を行えることが必要です。
  その意味でインターンシップは非常に有効な教育の手段です。ある国の文化や慣習、人間性、技術やノウハウなど現地でしか学べない貴重なものが学べます。産学官が連携して取り組むわけですが、そこで問題となるのは「主役は誰なのか」ということです。主役は学生だと思われがちですが、私は大学の先生と企業担当者が主役であると考えます。つまりインターンシップは、仕事のしかたをどう覚えていくか、アドバイスしながら体験させる「教育」に他なりません。学生は「良くできた」と言われれば嬉しいし、企業も自社の企業文化が認められれば嬉しい。大学は学生の卒業後が見える形になるよう育てていく。結果的に学生にとっても会社にとっても大学にとってもプラスになるような形ができれば理想的です。
  インターンシップの一環として、将来的には海外大学や企業と提携し、例えば日本語専攻の学生を招いてコミュニケーションを実地で学んでもらうような試みを始めてもよいように思います。自動車産業がなぜ発達したのかは実地で見れば一番良く分かりますし、通訳も社会で経験を積む中で初めてできるようになります。こうした実地での学びにこそ、留学の大きな意義があると考えています。


FU Ru-De
電気通信大学大学院情報工学専攻博士課程修了、博士(理学)。東京女学館短期大学情報社会学科専任講師を経て1998年同助教授。1997年より日本大学理工学部非常勤講師。2002年より現職。


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