張 英莉 氏
(埼玉学園大学 経営学部 教授)
昇進の遅さは日系企業の課題 外国人にもっと仕事を任せよ
――日本企業に就職した留学生の定着率の低さを指摘する声があります。
人材定着率についてはむしろ日本が特殊だと思っています。日本人は会社に入ればよほどのことがない限り簡単には他の会社に行きませんし、会社も簡単には解雇しないだろうという暗黙の了解があります。しかし世界では一つの会社に一生定着したりしないのが一般的です。例えば中国の会社で働いていて一生同じ会社にいようと思っている人はおそらくいないと思います。30年いたとしてもそれはいい給料をもらい、自分が信用され、昇進も確実にできて不満がなかった結果だといえます。
日系企業の課題は、昇進が遅いことです。中国人は、「私は自信があるので仕事をください、クオリティーの高い仕事をしたらそれに見合う給料をください」と考えます。いっぽう日本人は「まだ20代の若者で経験もないのに課長クラスの仕事をできるのか?少しずつ勉強しながら昇進していこう」と考えます。私は現地日系企業の中国人課長と日本人経営者にそれぞれインタビューしましたが、二人の考えはそのように真っ向から対立していました。日本人は「品質に対しては譲らない」という強いこだわりを持っており、実際にそれが企業の強みの源泉となっています。それゆえ「中国人たちはできるといっているが我々から見ればまだまだだ」と思っています。しかし、それは実際にやらせてみなければ分からないことなのです。本人もやってだめだったら納得するでしょう。どちらかというと心配性の日本人経営者が多いようです。
外国人は、優秀な人であればあるほど給料以上に達成感・満足感や自分に対する信頼を求めています。特に中国人は能力がある人ほど「メンツ」や自分の存在感、「自分はこの会社では何なのか」ということを非常に気にしています。最近、沿海地域の一流大学を卒業した中国人が会社をやめた理由のほとんどは、自分が大事に扱われていない、自分の存在感が弱いからということでした。
日本企業が留学生を定着させるためには、日本人が彼らの考えをもう少し理解してもっとチャンスを与え、仕事を任せることが必要です。留学生には、「自分は日本人にないものを持っているのでこの会社で自分の特長を活かしたい」という気持ちがあるはずです。その場合は貿易部や海外開発部などに配属させ、日本人ができない海外とのやり取りや現地調査などをさせれば、本人にとってはやりがいがあるし、日本人にないものを持っているから大事に使ってもらっているという気持ちになれるでしょう。まったく日本人と同じように、ただの日本人の中の一人として使うなら、外国人としては不満が出てくるのも仕方ないかもしれません。
ちょう えいり
一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。専攻は日本経済史、アジア企業の人材育成比較。著書に『現代社会の課題と経営学のアプローチ(2009年、共編著)』など。
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