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朴 熙成 氏 
(神戸松蔭女子学院大学 文学部 准教授) 


地震への対処法身につけさせよ  大学トップは安全のアピールを


――大学等の危機管理体制のあり方が問われています。
 留学生が日本に来て最初に外国人登録を行う際に、市役所や自治体では地震に関する情報を提供してくれますし、どこが避難場所なのかも紙の上ではわかります。最近はその情報が数カ国語に翻訳もされています。一通り読みますが、実際にその場所まで確認しに行く機会がなければ、いざというときにそれがどこなのか想像すらできないというケースが多いです。可能であれば、印刷物を手渡すだけでなく、ボランティアを活用して避難場所等を教えることも必要かも知れません。災害の際に携帯電話が不通になれば、事前に情報を理解しているかどうかは命にかかわってきます。起こりうることをすべて想定することはできませんので、個々人がいかに自分を守れるようにするかが大事です。
 こうした観点から大学運営について考えてみると、寮があれば防災訓練を行うことは当然ですが、初めて日本に来た学生に対しては、実例を紹介しながら自分の命を守る手段を示し、シミュレーションしておくことが大切です。私が短期の語学研修でカリフォルニアのUCLAを訪れた際、最初に学生を集めて、「ここでは地震が発生するので気を付けること、また避難すること」といった説明を大学側から受けました。日本の大学もこうしたオリエンテーションを行うことはできるはずです。全体での行動やルールを伝えることも重要ですが、いざという時、一人でも生き残れるよう地震への対処方法を身につけさせることも必要です。さらに日本でこのような災害対策を実施していることを、海外へ積極的に情報発信していく必要があると思います。

――震災による今後の日本留学への影響が心配です。
 実際、被災地とは地域的に離れている関西の大学でも、交換留学、交流プログラムがキャンセルになる傾向が出ていると聞いています。今年は仕方ないという姿勢の大学もありましたが、彼らが一度日本離れすると呼び戻すには大変な努力がいると認識しています。大学2、3年生や大学院生は日本の事情もわかっており大部分は戻ってきましたが、入学許可を出しても入学を断念する新入生がいる現状をみると、日本の大学全体で何か手を打つ必要があるのではないかと考えます。
 「大学コンソーシアム兵庫」で留学生受け入れ支援委員を務めていて感じることですが、日本の大学は海外への情報発信が足りないのではと感じています。留学生を多く受け入れている大学は、しっかりとした受け入れ体制を持っており、支援体制があること、教育の質保証の観点からも、優れている研究基盤や施設があることを発信していくべきです。日本離れを防ぐためには、大学の関係者(トップレベル)が海外に出向いて、教育環境が整っていること、産学連携など様々なシステムを構築していることなどを伝える。また、西日本の大学関係者はどれほど東日本と距離が離れているかを伝え、安心して勉強できる環境をアピールする必要があるでしょう。
 例えば夏休みの1週間だけでも良いので、今までより内容が濃く、魅力的な短期プログラムを作り、大学の関係者が相手国に説明する。また、文科省はそれに対する資金を提供する。留学生30万人計画を達成しようと思えばそういった緊急支援が必要なのではないでしょうか。現在のような非常事態においては現場の努力も必要ですが、相互交流を行っている大学においてはトップ同士の決断によって日本から離れる留学生を呼び戻すような状況づくりが必要かもしれません。

――震災を通じて日本人の気質が話題になっています。
 日本人は我慢強くこつこつ努力する精神風土を持っており、外国の報道機関からも大変良い点としてとりあげられています。しかし感情を自分の心の中に抑え込み続け、いつかコントロールできなくなり爆発する事態に陥ってしまう可能性も感じます。被災地にいる方には経済的支援は確かに大切ですが、長期的な心理的ケアも必要でしょう。
 困難な時こそ本当の意味での人間としての交流ができるのではないでしょうか。世界が日本を心配し、支援・援助する動きがあるときですから、世界と仲良くなるチャンスなのです。危機に際しては外国人も日本人も関係ありません。今後のグローバル社会において、人々の移動がますます多くなると思います。外国人も地域の一員として、普段の生活の中で日本人と変わりなく溶け込んで楽しく生活しながら、互いに本当の友人であると認め合える新しい文化を構築していけるよう願っています。


PARK Hee Sung
韓国出身。釜山大学人文学部英語英文学科1984年卒業。早稲田大学博士課程商学研究科・国際貿易1997年修了。商学修士(論文)。専門は危機管理、人的資源管理、多国籍企業の危機管理など。

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