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ニコラス ランバート 氏 
(東洋大学 健康スポーツ学科教授 教授) 


留学生、帰国後は民間大使に  市場の国に大学のブランチ設置を

――留学生受入れのメリットは何でしょうか。
 まず、留学生が多く来日することで、日本人は異文化コミュニケーションを学ぶことができます。日本の企業は調和を重んじ、会議前に根回しをすることが多いのですが、海外では会議で密度の濃いディスカッションをすることが多いです。このように国によって考え方、振舞い方が異なります。授業を通して、異文化を持つ留学生とのディスカッションをどうマネージメントするかを学べます。さらに、学生だけではなく教員も異文化コミュニケーションを学ぶことができます。
 また、語学力の向上にも有効です。近年日本経済が停滞している中、世界各国は独自の強みを発揮して競争しています。IT分野では韓国の台頭が目覚ましいですが、日本の競争力は低下してきています。原因の一つに外国語の問題があります。日本ではほとんど日本語しか使用されませんが、他のアジアの国々では、英語など多言語を使える人材が豊富です。IT分野は英語が主流で高い語学力がアドバンテージとなるため、日本は出遅れています。留学生の増加は、相互交流の中で語学を学ぶ意欲や機会を多くもたらすはずです。
 さらに、留学生は帰国後、民間大使となって海外の人に日本のポジティブな印象や思い出を伝えてくれます。これは非常に重要です。

――では、留学生受入れの課題は何でしょうか。
 やはり語学の問題が大きいでしょう。外国人にとって日本語で授業を受けることは簡単ではありません。その為、大学入学前に日本語学校に通うケースが多いのですが、本当に大学に合格できるのか不安を抱えながら過ごすことになります。したがって、英語などの外国語での授業が増えていけばいいのではないかと思います。受入れ体制を整えて、日本の伝統文化だけではなく、最先端のテクノロジーなど日本の特徴を教えることができれば、より多くの学生が日本に関心を示すはずです。
 また、教員の問題があります。日本の大学の教員は、外国人留学生を相手にした経験が乏しく、上手く指導できないことが多いようです。実際に、留学生が教員との関係で苦労した話も聞きます。留学生もまだ若くて人生経験が少ないこともあり、お互いにフラストレーションが溜まってしまうのです。したがって、全ての教員、職員、学生が異文化コミュニケーションを何らかの形で学ぶべきだと思います。

――留学生獲得競争が熾烈に行われていますが、世界と比較して、日本の大学の国際的な評価はいかかでしょうか。
 海外から見ると、日本の大学教育に対してあまり良いイメージはありません。中国トップの学生があまり日本に留学しないのは、彼らが日本の教育レベルは低いと思っているからです。世界の優秀な学生を引き付けるためには、ハイレベルな専門性を習得できる授業を提供しなければいけません。ある国際大学ランキングによると、アジアトップ50の大学に日本は3校しか選ばれていないという状況があります。世界的に日本の大学への評価が高くない理由はいくつかありますが、まず国際論文発表が少ないことが挙げられます。日本語で表記されていて、海外の研究者が読むことができません。また、ナノテクノロジーなど特定の分野の研究は優れていますが、全体的に知識の活用の仕方、説明能力、新しいアイディアの創造性が乏しいこともあります。

――受入れ留学生数の増加のために、どのような対策を取るべきでしょうか。
 先程お話しした授業の質の向上や外国語の導入の他には、市場としている国に大学のブランチを設置するという方法があります。例えば、タイのバンコクにブランチを設置するとします。そこで学部教育の最初の2年間を履修できるようにすることで、専門分野と日本語を母国にいながら勉強できるようにするのです。さらに、母国にいながら大学に通学できるので、来日するよりもコストが低くなります。カナダでは、地元のコミュニティカレッジで、有名なブリティッシュコロンビア大学と同じ授業を受講することができます。それは、ブリティッシュコロンビア大学とコミュニティカレッジがパートナーシップを結んでいるからです。2年目まではコミュニティカレッジで学び、3年目からブリティッシュコロンビア大学に通うことでコストが節約できます。この方法はブリティッシュコロンビア大学に限らず広く浸透しています。
 また、留学生にとって住居の問題も大きいです。ニュージーランドは留学生を多く受入れていますが、最大都市であるオークランドには、ホームステイのホストファミリーが約500家庭存在しています。日本もホームステイを受入れる家庭を増やすことで、留学生に寮、一人暮らし、ホームステイなど多様な選択肢を提供することが望ましいです。世界的にみて、日本人は親切で礼儀正しいという印象がありますが、大学や住居などに関して留学生へのサポートが不十分だという印象もあります。留学生が「歓迎されている」と感じる体制が必要です。


Nicholas Lambert
 カナダ出身。ブリティッシュコロンビア州(カナダ)で小学校、高校の教師として10年間勤務。その後、3年間ジンバブエ共和国で英語と歴史のボランティア教師として活動。ブリティッシュコロンビア大学で言語教育学の修士号を取得後、1986年から日本で勤務。1997年から東洋大学で教える。

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