Top向学新聞内外の視点>ポール スノードン氏


ポール スノードン氏 
(杏林大学 副学長) 


400名の学生派遣と受け入れへ  ソフトパワー応用し教育の輸出を

――欧州における日本の存在感についてどのように感じていますか。
 欧州の目が日本ではなく、中国に向かっていることが問題の一つだと感じています。例えば、1980~90年代にイギリスの観光地を歩いている東洋人がいればすぐに日本人だと推測できました。ですが現在は、その立場が中国人に変わってしまっています。イギリスにいる知り合いの日本語教師によると、日本語学習者がどんどんと減っていき、人々は中国語学習に流れていっているようです。日本語学習者が減少することで、政府からの援助も打ち切られるという悪循環に陥っています。

――逆境の中で、海外の注目をどのように日本へ引き付けることができるでしょうか。
 日本語ができなくても、日本留学できるようにすることが重要です。私は長らく早稲田大学で勤務しており、国際教養学部の学部長を務めていました。早稲田大学国際教養学部は、学部生の3分の1を外国人留学生にするという方針がありますが、実は留学生の募集にあまり困りませんでした。それは英語で授業を提供し学位を取得できるようにしたからです。当然日本に留学するからには日本語を学びたいでしょうし、そういった学生には初級から日本語を教えます。また、英語での授業は欧米出身の学生のためだけではありません。例えば韓国の学生は、高校時代からアメリカなど英語圏に留学するケースが多く、そういった学生が更に違う国で勉強したいと日本を選択することは珍しくありません。そういった場合にも英語での授業が非常に有効なのです。
 そういった経験を踏まえ、杏林大学は2016年に文系(外国語学部・総合政策学部)新キャンパスを三鷹に建設する予定です。そこでは文系学生約400名全員に留学を必修化させます。さらに日本人学生を海外に派遣している期間を利用し、約400名の外国人留学生を受け入れるという壮大な計画を立てています。そこでは英語だけではなく中国語での授業も準備し、グローバル化を推進したいと考えています。

――日本で英語での授業が広がった場合、欧米の大学と比べてどういった差別化ができるでしょうか。
 日本はポストインダストリアル(脱工業化社会)時代を迎え、ハードパワーではなくソフトパワーの時代に突入しています。そして、世界の若者はアニメーションなど日本のソフトパワーに強い興味を抱いています。イギリスも世界トップの工業大国からソフトパワーを輸出する役割に変化していきましたが、日本もかつてのポジションを新興国に奪われたとしても、新しい立場を確立すべきだと思います。そして世界で躍動するソフトパワーを応用し、教育を輸出できるようになれば素晴らしいと思います。


Paul Snowden
 英国出身。ケンブリッジ大学キングス・カレッジ修士号取得。筑波大学地域研究科外国人教師等を経て、1983年に早稲田大学政治経済学部専任講師(1985年助教授、1990年教授)。2004年早稲田大学国際教養学部教授(2006年~10年同学部長)を歴任。2012年に杏林大学客員教授、2013年に杏林大学副学長に就任。


a:5302 t:2 y:1