ディミター ヤルナゾフ氏
(京都大学大学院 総合生存学館教授)
ソフトパワーのアピールを 真の国際エリートを育成
――母国ブルガリアでの留学生受入れの状況についてお聞かせください。
以前ブルガリアが社会主義国であった時代は、留学生受入れ政策がありました。他の社会主義国の留学生などを受入れ、ブルガリアで教育していたのです。例えばベトナムからの留学生はかなり多かったですね。体制が崩壊してからは留学生受入れ政策がなくなり、留学生数もかなり減少しました。しかし、2007年にEUに加盟すると状況は一変しました。EU未加盟国出身で、将来はEUの中で仕事をしたいという学生がブルガリアに留学するようになりました。ブルガリアの大学で得た卒業証書はEUで認められるからです。特にトルコからの留学生が増えているようです。
もう一つ、EUには「エラスムス」という欧州の高等教育の質を高め、教師や学生の交流を促進するプログラムがありますが、それによって他のEU諸国からの留学生も増えています。
――日本の大学のグローバル化には何が必要でしょうか。
大学の努力でできることと、大学の努力だけでは難しいことがあると思います。大学の努力で可能なのは、英語での授業や外国人教員を増やすこと、またダブルディグリー制度を整備することなどです。これらは外国人留学生数を増やすのにもプラスになるでしょう。今の流れをさらに推進してほしいと思います。
一方、外国人留学生にとって、日本で就職したくても英語力だけで就職できる企業がまだ少ないです。また、私もそうでしたが、かつては日本の経済・経営を学びたいと世界中から日本に留学に来ましたが、近年は日本の経済状況が厳しくその数は減っています。逆に中国や韓国のほうが注目されています。こういったことは大学の努力だけではどうしようもないことで、日本社会全体の課題として解決する必要があるでしょう。今ならマンガやアニメなど日本のソフトパワーをもっとアピールして、日本に関心を惹くような試みも有効でしょう。また日本の企業は、留学生に求める日本語能力レベルをもう少し緩くしてほしいですね。
――京都大学ではどのような取組みを行っているのでしょうか。
私は今年4月から総合生存学館(思修館)という新しい大学院の教授に就任しました。思修館は、一言でいえばグローバルリーダーの養成を主目的としています。5年間の総合一貫プログラムを実施し、2年目に一ヶ月、4年目には1年間の海外インターンシップで実践的なことを学ぶことができます。
また、毎週土曜日には企業のトップや国際機関で活躍している方を招いて、学生の前で講演していただいています。世界では1990年代からグローバル化が進みましたが、日本の産学官のエリートはグローバル化への対応が遅れたり、グローバル化の本当の意味がよく分かっていなかった面があったと思います。そのため真の国際感覚をもった新しいエリートを養成しようと試みています。今のところ外国人教員は私1人ですが、本学の総長が外国人教員を増やす方針を打ち出し、数値目標も出しているので期待しています。世界のトップレベルの大学では、外国人教員の比率は30%を超えています。急に増やすのは無理でしょうが、まずは完全雇用でなくてもいろんな形で海外から招待し柔軟に対応すべきでしょう。
Dimiter Savov Ialnazov, PhD
1998年10月~東京工業大学大学院助手、2001年4月~京都大学経済学研究科講師兼留学生担当教員、2010年12月~同准教授、2013年4月~同大学大学院総合生存学館(思修館)教授。専門は中東欧経済、比較経済システム、制度経済学。
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