ユー アンジェラ氏
(上智大学 学術交流担当副学長)
地域毎の日本留学アピール G30事業で違った学生層との出会い
――近年、日本で学ぶ外国人留学生数が伸び悩んでいます。上智大学では留学生受入れ拡大のためどのように取り組んでいるのでしょうか。
非常に大きな課題で、地域毎に日本留学のアピールの仕方を変えています。例えば本学の国際教養学部では米国式のリベラルアーツ教育を半世紀以上行っており、欧米からの留学生受入れはとても進んでいます。
2012年に理工学部に英語コースが出来ましたが、将来的に母国に貢献したいというアジア出身の留学生が魅力を感じているようです。今後はアセアン諸国との連携を強化するため、アセアンの学生は何を一番必要としているのかを考えています。来日して日本語をしっかり学ぶ学生は少ないだろうということや、環境・人間開発等の学術分野、日本企業でのインターンシップに強いニーズがあると分析しており、それらを英語で実現できるワンセメスタープログラムを開発している最中です。もちろんアセアンからだけではなく他地域の留学生にも参加していただきたいと思っています。なお、今年のアフリカ開発会議で表明された「安倍イニシアティブ」(アフリカ人材の育成プラン)の受け皿として、アフリカ留学生も呼ぶことができます。
――地域毎に戦略を変える上で課題は何でしょうか。
やはり大学カレンダーを検討してプログラムを構築しなければいけません。先日オーストラリア大使館職員とも協議しましたが、豪州の大学は1月が夏休みで、その時期を利用してオセアニアの学生を受入れる短期プログラムを作ろうとしています。メディアやビジネスを学びたいという要望があり、やはり地域で必要とされるものが違うと感じます。
豪州政府は、豪州の学生をアジア各地に派遣する「新コロンボ計画」を予定しており、学生の受入れ要請を積極的にアプローチしてくれました。彼らと相談しながらプログラムを構築しており、政府として何を重要視しているのかを知るのも大切です。
――大学のグローバル化のため実施されている文部科学省のG30事業(5年間)が今年度で終了します。上智大学は採択校の一つですが、この5年をどのように評価していますか。
理工系学部と地球環境学研究科の英語コースを創設できたことがとても良かったと評価しています。どちらも学位付与のコースなので、正規生の受け入れは可能です。なお、「言語教育研究センター」も発足し、留学生の語学学習のサポートをより充実させます。何よりも、国内外の大学や教育機関とのネットワーク化は更に進化し、着実にG30のブランドイメージを作り上げました 。
事業開始当初は、英語コースの意義や教授法の問題などが議論されましたが、これまでとは違った学生層との出会いや新たな教授法で国際発信力の強化ができ、大学としての成長を実感しています。5年間では目に見える成果は限られていますが、ここで学んだ学生が10年後、20年後どのような世界を作るのか楽しみにしています。
――確かにこれまでとは違った学生と出会うには、大学自身が変化する必要がありますよね。
そうですね。本学は「他者のために、他者とともに生きる」という教育理念や社会的責任から、東ティモールやミャンマーなど開発途上国の留学生も受入れたいと考えています。授業料を払うことが出来ない貧困層の学生に対して、奨学金等の環境を整備し、赤字かどうかという問題ではなく一人でも二人でもいいから育てて貢献したいと強く思っています。本学で学ぶための準備教育の不足や語学の問題などが想定されますが、大学の質を低下させることなくどのように知的空間で教育するか、教育者として大きな挑戦になります。途上国に対して「与える」という表現をよく使いますが、彼らを受け入れることで私達が変わり、教員・学生ともに成長していくのだと思います。
Yiu Angela
香港出身。コーネル大学文学部卒業後、イェール大学東アジア研究科で博士課程前期、東アジア言語文学研究科で博士課程後期を修了。上智大学グローバル・スタディーズ研究科委員長等を経て、2011年から学術交流担当副学長に就任。
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