Top向学新聞内外の視点>蔡 イン錫 氏


蔡 芢錫 氏 
(専修大学 経営学部教授) 


学位の通用性が課題に  教育のシステム化が必要


――日本の留学生受入れの課題点とは
  日本留学は経済・生活支援の面では非常に優れていますが、個々人が留学の目的を達成できているかどうかは別問題です。残念ながら、留学生への手厚い支援は個々人の満足感にはあまりつながっていないようです。日本の文系、特に社会科学系の学位はアメリカの学位と比較して国際的通用性が低い傾向にあり、博士号を取って帰国しても結果的に母国で良い職に就けないケースが多いのです。結果を出しても生かされないのでは、たとえプロセスがよかったとしても日本留学の良さは実感できなくなってしまいます。特に社会科学系の学位のステイタスは、日本留学の大きなネックになっているといわざるをえません。
  留学生を受け入れる以上は、しっかりと育成できる体制を整え、学位の国際的な通用性を高めようとする努力やシステム作りが何より必要だと思います。その意味で経済・生活面での支援も重要ですが、それ以上に大学・大学院の指導・育成体制やカリキュラムの見直しが必要です。現在ではシステム化されていないので、留学生の実力に個人差が大きく出てしまっています。私が考えるには、教育は指導教官一人だけに任せるべきではないと思います。アメリカではシステム化が進んでいるので、「学位をとればこういうことができるようになる」とある程度イメージできますが、日本で学位をとってもそういう確信がもてないのであれば、アメリカに行ったほうがいいと思うようになるのは当然です。
  留学生の就職についても、少子高齢化社会における労働力の確保や高度人材の獲得といった、日本の国益の視点から考えることももちろん必要でしょうが、私はむしろ「留学生本人にとっての日本留学の魅力」という視点がより重要ではないかと思います。学部留学生を定着させようとするなら、彼・彼女らが日本への留学を決めた際の志や勉学の目標、抱いた夢を実際に達成でき、「日本で学んだがゆえに今の私がある、日本に留学して本当に良かった」と実感させてあげることを政策の目標に置くべきではないでしょうか。このような積極的な人材であれば、日本企業もほしがるはずです。
  多くの大企業では留学生を採用していますが、採用が続かないのは「一人いるからもういいだろう」と考えてしまうからだと思います。会社に一人か二人しかいない外国人いかんによってその後も外国人が採用されるかどうかが決まってしまう傾向がありますが、これは、外国人個々人が持っている可能性を日本企業がうまく活用していないことを表しています。一人や二人しか採用しないのでは、能力のある外国人を見分ける目はなかなか育たないと思います。最後に、外国人採用において特に気をつけなければならないことは、一人だけを見て「留学生はこういうものだ」と断定してはいけないことです。外国人ではなく、もっとその人個人を見ようとする努力が必要なのです。


CHAE In-Seok
1990年延世大学経営学部卒。1998年慶應義塾大学修了。商学博士。専修大学経営学部専任講師、オレゴン大学訪問研究員、専修大学経営学部准教授を経て、現職。


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