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楠見晴重氏(関西大学学長) 


ICTを使って世界の大学と共同学習  
「留学生の第二の故郷」に

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 昨年、国際化戦略「TRIPLE I構想」を策定した関西大学。英語教育の大幅な改革を断行し、日本語・英語によるイマージョン教育の実現を目指す。構想内容を中心に、今後の展望を関西大学・楠見晴重学長にお話を伺った。


―グローバル化時代においてどのような教育を行なっていくのでしょうか。

 昨年、2014年~2023年の10年間で実現を目指す国際化戦略「TRIPLE I構想」を策定しました。英語教育の大幅な改革を断行し、英語と日本語の二言語で日本人学生と留学生が共に学ぶイマージョン教育が戦略のベースになっています。
 日本人学生は入学時の英語能力によって、ステージ0~3までのレベル別にグループ分けをして、段階に適した教育環境を提供していきます。ステージ0の場合、学生4~5人に対してネイティブスピーカーの英語講師を一人つけるという超少人数授業を10日間集中的に行います。まず学生の「英語に対する心理的な壁」を取り除く作業から始めるわけです。既にトライアル授業を経て本格導入されており、追跡調査をすると学生からも好評なようです。
 ステージが上がるごとに、短期海外研修、長期海外留学、ダブルディグリーなど学位取得を目的とした海外派遣に挑戦できるよう多様なプログラムを準備していきます。現在海外協定校は約80校ですが、2023年には5倍の400校との協定を実現する計画です。
 それと並行して外国人留学生の受け入れも拡大させます。現在約800名の留学生が在籍していますが、留学生5000人が目標です。2012年に、大学・大学院で通用する日本語能力の養成を目的とした留学生別科を開設した他、今後は日本人学生・留学生が混住する国際寮の整備などに取り組んでいきます。
 また、海外での教育機会を拡充させるために、タイやベルギー等の海外サテライトキャンパスで、「サーティフィケートプログラム」を開講します。海外現地の方に一定レベルの学習プログラムを提供し、修了者に履修証明書を交付する仕組みで、日本・関西大学と繋がりがある方をどんどん増やしていきたいと思います。

―留学生の受け入れ拡大は重要ですが、留学生がどのように日本人学生と共同学習できる仕組みを作るかがポイントになっていくのではないでしょうか。

 そうですね。そういった意味では日本人学生と留学生の「バディ制度」を本格化させていきます。そのうちの一つが「Honors Program」です。英語力が最も高いステージ3の学生と留学生がペアを組み、国際寮で寝食を共にしながら勉学を進めていくプログラムで、異文化体験プログラムの最高レベルに位置づけています。
 更に、ICTを使って世界中の学生とバディを組む機会を提供しています。ニューヨーク州立大学が立ち上げたオンライン共同学習システム「COIL」は、世界30カ国以上、100を超える教育機関と提携し、FacebookやSkype等を活用して、国境を超えたグループワークやディスカッションを実現させました。そして、関西大学が日本で初めてパートナーに加わることになったのです。今後はアジアのハブとしての役割を担うことになり、この輪をより広げていきたいと思います。

―それはすごいことですね。ところで、留学生が大学を卒業しても、日本と深い繋がりを維持するためにはどうすれば良いでしょうか。

 企業の方の話を聞くと、「留学生を採用したい」という声が多くなってきていますし、日本で就職したいという留学生も多くいます。そのため本学としても、留学生と企業がWinWinの関係を構築できるよう就職に関連したサポートを充実させます。特に日本の企業文化の理解、ビジネス日本語の習得に効果的なインターンシップを留学生全員に経験して頂くプランを立てています。インターンシップ先は、地元関西の経済団体等に協力して頂きます。
 また、関西大学がある千里地域を「留学生の第二の故郷」と感じてもらえるよう大阪大学や企業・自治体等と連携して「H.O.M.E.千里交流拠点」を2012年に開設しました。これは留学生と日本人学生だけでなく地域ぐるみで交流するもので、地元の祭りを一緒に企画・運営したり、地域の問題の解決策を話し合ったりしています。活動に参加した留学生は千里を故郷のように感じてくれていますし、地元の方々が留学生の卒業式に出席して下さるなど、とても良い状況を生み出しています。
 これら一連の活動は、受け入れだけではなく、「留学→就職→定着・定住」のルートを作り、留学生にとって魅力ある日本・地域づくりに寄与できているのではないかと感じています。

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くすみ はるしげ 関西大学大学院工学研究科博士課程前期課程修了。同研究科博士課程後期課程中途退学。土木工学専攻。1982年から関西大学で勤め、工学部教授、工学研究科長等を歴任。2009年10月から現職。



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