Top向学新聞トップに聞くグローバル教育の行方>三島良直氏(東京工業大学学長)×佐々木瑞枝氏(金沢工業大学客員教授)

三島良直氏(東京工業大学学長)        
×佐々木瑞枝氏(金沢工業大学客員教授)
 


世界最高の理工系総合大学へ  
世界トップ校からの留学生受入れ拡大

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 明治時代に技術で国を興す命題の下、「東京職工学校」としてスタートした現在の東京工業大学。日本随一の理工系大学は、その活躍の舞台を更に広げるべく積極的なグローバル化に取り組んでいる。今回は東京工業大学の三島良直学長に金沢工業大学の佐々木瑞枝客員教授がお話を伺った。


(佐々木) 東京工業大学は、工業先進国として世界をリードしてきた日本の産学界に、多くの人材を輩出してこられました。今後に向けてどのようなビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか。

(三島) グローバル化が進展した現代社会では、資本や労働市場が国の枠組を超えて流動し、人類は環境問題や世界的金融危機など地球規模での課題に直面しています。そこで本学ではグローバル化に対応すべく、一昨年、国際戦略を見直し、「東工大の国際戦略2012」を策定しました。長期的な目標である「世界最高の理工系総合大学」の実現を目指し、現在、さまざまな改革に取り組んでいます。

(佐々木) 具体的にはどのようなプランなのでしょうか。

(三島)グローバル化への対応についていえば、海外の優秀な教員の採用、長期的な海外経験を有した教職員の育成、優秀な留学生の受け入れ、学生の海外派遣の促進などがあります。

(佐々木) 優秀な留学生の受け入れについてお聞きしたいのですが、現在はどのような状況なのでしょうか。

(三島)東工大生の約13%は留学生です。2013年5月時点で1255名の海外からの留学生が本学で学んでいます。中国からの留学生が約490名と最も多く、タイ、インドネシアをはじめとするアジア諸国の学生も多数在籍し、アメリカ大陸、欧州、中東、アフリカなど世界各国の留学生が学んでいます。ゆくゆくは外国人留学生数を倍増させたいと考えていますが、いかに優秀な留学生を受け入れられるかが、より重要です。
 そこで、世界トップ校からの留学生の受け入れを拡大させたいと考えています。2012年夏から、欧米・アジアの理工系トップ大学の主に学部学生に研究体験の機会を提供するサマープログラムを開始しました。他方、海外大学との大学間交流も進めており、本学と清華大学(中国)・KAIST(韓国)といったアジアトップ大学間で「キャンパスアジア」という枠組みを作り、学生相互の交流を行っています。こういったプログラムは数週間~数ヶ月の短期型ではありますが、海外学生に東工大の良さを知ってもらい、長期的な留学を考えるきっかけにしたいと思っています。日本人学生においてもまずは世界を体感する最初のステップとし、長期的な海外留学への動機付けになればという考えです。

(佐々木) なるほど、素晴らしい取組みをされていますね。日本の大学が世界最高峰の域にまで達するためには、優秀な留学生の受け入れが必要ですが、その為には日本のグローバル化が底上げされなければいけませんね。現在の課題を突き詰めれば、日本人の英語力と長期的な海外経験の欠如にたどり着くと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

(三島)そうですね。近い将来、学部生全員が、卒業までに海外経験を積むようにさせたいですし、大学院レベルでは、学生の1割以上が長期滞在を経験し、海外の大学でも学位が取得できるような仕組みを整備していきたいです。先程の短期型海外プログラムを契機に、最終的には海外で長期的な研究活動を行い世界的な学位や評価を得て、それを本学や日本に還元できる人材を育成したいです。

(佐々木)マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア大学バークレー校など世界の一流大学は授業が素晴らしく、教員の資質が大学の評価や学生の成長に大きく影響していますよね。海外の学生達は非常に勉強熱心ですが、一般論として日本の大学生は世界と比較すると学生の勉強意欲が高くないようです。問題点はどこにあるのでしょうか。

(三島) 高校卒業時点の日本の学生は世界トップレベルですが、大学での成長は海外の学生の方が大きいように感じます。そこには教員がどれだけ本気で教育に専心しているかが影響しているように思います。学生が真摯に勉強に取り組めるかどうかは教員側に大きな責任があるからです。私は本学の教員に、「研究で一流は当たり前。教育でも一流になってほしい」と折に触れて伝えていますが、教員としての資質という面では、若手の研究者に大きな期待を寄せています。若手教員には日本での活動に加えて、海外でしっかりとした実力と評価を得て最終的に本学でその力を発揮してもらう形が理想的ではないかと考えています。また外国人教員を増やすことも大きな課題です。彼らを講義の英語化のために招くのではなく、研究・教育活動を充実させるために活躍してもらいたいと思います。
 教授法にも改革が必要です。アクティブラーニングと言われるグループワークやディスカッション形式の授業を増加させていきます。学生が主人公となる授業で、どんどん勉強の面白さを体感して、自ら学びとる気概を学生たちに持ってほしいと思います。

(佐々木)確かに、参加型の「学生が主人公」の授業の展開は魅力的ですね。東工大が目指す「世界最高の理工系総合大学」が実現されることを期待しております。今回は貴重なお話をどうもありがとうございました。
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みしま よしなお 1975年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了後、2年間同大学でアシスタントリサーチエンジニアを務める。その後帰国し、東京工業大学にて助教授、教授等を歴任し、2012年10月学長に就任。


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