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遠藤 和夫氏 
(一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部) 


新卒一括採用+人材育成  日本的経営の強み 採用活動後ろ倒しに


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新スケジュール

――2016年卒業生の就職活動開始時期はいつ頃に。
 企業・就職情報会社のプレエントリー受付や、企業説明会等の広報活動については学部3年・修士1年の3月1日以降の春休みから本格的な活動が始まります。面接や試験といった選考活動は、学部4年・修士2年の8月1日以降になります。なお、正式内定日は従来どおり10月1日以降です。
 これまでの採用選考活動の場合、企業の広報活動が学部3年・修士1年の12月1日以降、選考活動は学部4年・修士2年の4月1日以降でしたので、2016年卒業生を対象とした場合、企業の広報活動が3ヶ月、選考活動が4ヶ月それぞれ大幅な後ろ倒しになります。

――なぜ採用活動後ろ倒しの要請があったのでしょうか。
 採用選考活動開始時期の変更には2つの大きな理由があります。一つ目は、大学の学事日程を尊重することで学生が学業に専念できる環境を作るためです。採用選考活動の早期化・長期化の改善に向けた取組みになります。
 二つ目は、海外に留学した学生に十分な就職活動の機会を提供するためです。大学3年生の夏から約1年間交換留学等で海外に留学する場合、帰国が大学4年生の夏になってしまうならば、4月から選考を行なう企業のスケジュールとあわないことがありました。
       
新卒一括採用


――多くの企業が同じスケジュールに沿って一括して新卒者の採用活動を行なう日本のスタイルは海外と比較して珍しいのでしょうか。
 企業が年度ごとの新卒者の採用を一括して行なうことを「新卒一括採用」といいます。広く世界を見ても、この新卒一括採用を行なっているのは日本と韓国だけです。その他の国では大学卒業後に就職活動を行なうケースや、在学中のインターンシップを通じた採用直結型の就職活動など多様なパターンがあります。
 しかし、15~24歳(若年者)の失業率を各国データで比較してみると新卒一括採用がどのように機能しているのかがわかります。2012年の調査によると、日本8・1%、韓国9・0%、米国16・2%、英国21・0%、フランス23・8%となっています。この結果は、日本企業が新規学卒者を一括して採用する慣行があるため、景気変動の影響があったとしても、毎年4月には、就職希望者の9割以上(30万人超)の大学生が就職できていることによるものです。他国では、「新卒」という枠組みだけで採用が行なわれないため、即戦力としての働き方が問われているのです。

――海外の採用選考活動の形態は。
 欧米等の海外では、人事やマーケティングなど職務・職種別の採用を行ない、個人のパフォーマンスの評価を重視する傾向があります。職務・職種を前提に採用選考活動を行なうので、採用時点で即戦力となる専門性(熟練度合い)が求められます。採用後は、その職務・職種でキャリアを積みスペシャリストとしての働き方を確立していきます。しかし、その企業内で自分が所属する部署や従事している職務が必要とされなくなることもあり、キャリアチェンジを行う際には大きな負担を負う場合もあります。
       
企業側のメリット

――新卒一括採用における企業側のメリットは何なのでしょうか。
 端的に言えば、企業と必要な人材との効率的なマッチングが可能になることなのですが、むしろ、新卒一括採用と企業の計画的な人材育成がワンセットになって日本的経営の強みになっていることだと思います。日本企業の強みは組織力にあります。組織としてどう成果を残すかという視点で評価するためには、組織としてどのように人を活かしていくのかを考えます。具体的には、入社間もない頃から大きな責任を任せるというよりも、チームの中で一定の役割を担いながら段階的に成長できる機会を提供していきます。さらに、ジョブローテーションにより、いくつかの部署を経験することでキャリアが形成されていくのです。多くの日本企業では、例えば10年後に活躍ができるような将来の可能性への期待を込めて新卒者を定期採用し、一定期間かけて計画的に人材を育成します。その結果、労使の信頼関係が醸成されるなかで、企業理念や伝統・文化を継承したリーダーが数多く生み出されてきました。
 日本企業の場合、入社後すぐに自分の希望通りの働き方が出来ないことがあるかもしれませんが、一定期間踏ん張ることで必ず自分の能力を活せる時期がやってきます。昨今では特に、外国人留学生を採用したいと希望する企業が増えています。留学生の皆さんには、日本と海外を比較した短期的な優劣だけではなく、長い職業人生の中で自分がどのような働き方をしたいかということを問いかけながら就職活動に取り組んでいただければよいのではないかと思います。




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