今井 千晴氏
(名古屋大学 国際教育交流センターキャリア支援部門特任講師)
※肩書きは取材時のものです
就活は自分の「軸」探しが重要 2016年卒業生の就活は「短期決戦」
日本の就職活動は世界的に見ても独特だと言われている。具体的にどのような流れで就活を進めているのか。今回は、「日本の就職活動と留学生」というテーマで名古屋大学国際教育交流センターの今井千晴氏にお話をお聞きした。
短期決戦
――日本の就職活動の特徴は何でしょうか。
現在多くの日本企業が新卒一括採用を行なっています。即戦力を重視する海外の企業とは対象的に、日本企業は長期的なスパンで成長し会社に貢献できるポテンシャルを持つ学生を採用します。企業によって異なりますが、入社後に、新入社員ひとりあたり1000万円以上を投資して教育を実施するケースもあります。ですから、様々な選考方法を使って慎重に学生の個性を見極め、一緒に働きたいと思える人、社風に合う人を探します。日本で就職活動を行うにあたり、こうした企業側の意図を理解することも大切です。
――具体的にどのような流れで就職活動を進めていくのでしょうか。
2016年卒業生の就活スケジュールは、学部3年・修士1年次の3月から企業が企業説明会等の広報活動を開始し、学部4年・修士2年次の8月から面接等の選考が行なわれます。通常就活は、エントリーシートの提出→筆記・SPI試験→数回の面接→内定という流れですが、今回は「短期決戦」になると予想されています。
5月中旬~下旬には、企業への申込みであり最初の関門であるエントリーシートの提出締切りを設定する企業が多いと考えられています。学生は企業と接点をもてる3月から2ヶ月余りの期間に、ある程度の志望業界・企業を選定する必要があります。ですから、3月にゼロから就職活動を始めるのではなく、事前に自己分析・企業研究を行なって、就職活動における自分の「軸」を見つけることが非常に重要になってきます。特に就職活動を経験した留学生からは、「自己分析について軽く考えていた。早い時期からきちんとやっておけば良かった。」という反省をよく聞きます。学部3年・修士1年次の10月~12月にかけて、各大学での就職関連イベントの開催がピークを迎えます。まずは積極的に情報収集をして、大学が実施するイベントに参加しましょう。
「自分の広告」
――3月以降は具体的にどのような流れになるでしょうか。
企業へのエントリーシートの提出がすぐに始まると思いますが、実は留学生から最も多い相談がエントリーシートの添削です。留学生にありがちな傾向が、自分の成長やスキルアップなど「自分視点」に偏った志望動機を記入し、「企業視点」が不足していることです。企業が知りたいのは、「企業に貢献できる人材かどうか」であって、会社はスキルアップをさせてもらう場所ではありません。企業の利益向上や事業の発展に業務を通じて貢献していく過程で、自ずと成長していきますのでそこを強調するのではなく、企業が必要とする人材に、自分がいかに当てはまるのかをアピールしてみて下さい。
また、エントリーシート対策本の内容をそのまま真似してしまうこともよくある失敗です。留学生の学生生活を掘り下げて聞いてみると、起業やボランティアなど個性的で興味深い活動をしているにも関わらず、本やインターネットにある文章の例をそのまま書いてしまい、ありきたりな内容に終始してしまうことがよくあります。そのためよく学生に、「エントリーシートは自分の広告だ」と伝えています。自分にしか書けない経験や学び、気付きをエントリーシートに盛り込んでほしいと思っています。
繰り返し勉強
――エントリーシート選考通過後は、筆記試験・SPI試験対策ですね。
留学生が苦労するのがこの筆記・SPI試験です。留学生の語学力を考慮してくれる企業、そうでない企業がありますが、まず問題に慣れること、時間の感覚をつかむことが対策として必要です。以前、日本人を入れた中でもSPI試験のトップスコアを記録した留学生がいました。留学生だから点数がとれないと諦めることはありません。アドバイスとしては、一冊でもいいので参考書を買って何度も繰り返し勉強することです。
結論を先に話す
――面接対策はどうすればよいでしょうか。
面接の第一段階として多いパターンが、グループディスカッションです。実は就活の中で留学生が最も苦手としています。日本人学生と対等にディスカッションしなければならず、日本語の理解に時間がかかり話題に入れないことが多々あります。大学の就職課では、グループディスカッションの練習セミナーなども開催されていると思います。まずは日本人学生に混ざって練習をすることが一番の対策になるでしょう。
集団面接では、文章の組立てが重要です。何人もの就活生と一緒に面接が行なわれるため、一つの質問に対する回答として割り振られる時間は限られています。この短い時間内で簡潔に答えるために、まずは、聞かれている質問に対する答え、つまり結論から先に話すことがポイントです。これはその後の個人面接でも共通しています。
また、有効な面接対策として、客観的に自分を把握することをぜひお勧めします。例えば、模擬面接練習を携帯電話やスマートフォンでビデオ撮影して見返してみてください。会話中に、「あの」や「なんか」が多かったり、姿勢が悪かったり、これまで気付かなかった自分のクセを発見できるでしょう。自分の姿を自分で見ることは、なかなか気が進まないかもしれません。ですが、自分や自分が知っている人の前でする面接が一番難しいんです。これを乗り越えられれば、実際の面接では初対面の人が相手ですから、あまり緊張しないで済むかもしれませんよ。
この面接を乗り切れば見事内定です。就活の一連の流れをお話しましたが、大事なのは、自分がなぜその企業で働きたいのかという熱意です。軸がしっかりしていれば、エントリーシートであれ、面接であれ、その場に適した形にアレンジするだけで良いのです。そのためにもぜひ、なるべく早い段階から準備を進めていきましょう。
a:5176 t:2 y:0