Top向学新聞日本で働く留学生OBたち>金 東一さん

向学新聞2016年1月号>


金 東一さん (韓国出身) 
(双日株式会社 化学本部) 

留学生にはパイオニアになれる環境がある

金 東一さん


総合商社に就職


 総合商社はエントリー数1万越え、倍率は100倍に及ぶと言われる最難関の就職先の一つだ。世界中の国々とあらゆる商材を取引するトレーディングを始め、事業投資など多様なビジネスを展開。まさしく「世界を舞台」としている総合商社は、多くの留学生にとって憧れの場所だ。
 
 難関をくぐり抜け日本の七総合商社の一つ、双日で奮闘している留学生OBがいる。韓国出身で入社2年目の金東一さんだ。2014年に東京工業大学大学院修士課程を修了。学生時代は窒素酸化物除去に関する研究に勤しむ毎日を過ごしたが、「今後はハイブリッド型の人材が求められる」と激動のビジネスの世界に身を置くことを決めた。
 


日韓を往来


 両親はジャーナリストとして一時期日本と韓国を行き来していたため、両親について日本と韓国で転校を繰り返す小学校時代を過ごした。目まぐるしい環境の変化から学力が向上しない悔しさ、日本のクラスでは「韓国人だから」と肩身の狭い思いも経験した。しかし、「何か理由があってこの時世に生まれたはず」と運命を受け入れた。
 


日本留学


 韓国に本帰国した後、高校の成績はトップクラスに上昇した。ふと「日本語スキルがどれほどあるのか知りたい」と思い、高校2年時に日本語能力試験を受験。すると予想以上の成績でN1を取得した。日本の大学入学に必要とされる日本語レベルをクリアしたのだ。留学への思いに火がついたが、両親は「成績も上がり韓国で進学すれば良いのに、なぜ他の人と違う道を行こうとするのか」と猛反対した。しかし、小学校時代の経験から「自分には日本留学こそがチャンスなんだ」と自らの意思を押し通した。
 
 東京工業大学に入学した後は、「早く自立したい」と学業とアルバイトに明け暮れた。できるだけ家賃の安い部屋に引っ越し、その度にアルバイト先を変えて苦労が絶えなかった。就職活動の際、日中は企業を訪問し、夕方は大学でゼミに参加、夜は研究発表の準備に追われ、その後はコンビニの深夜バイトに出かけて4日間寝れないという時期もあった。


諦めない人


 双日入社の決め手は、「他の総合商社と比べて人数が少なく収益規模は小さいが、責任を持って活躍できるようになるまでにかかる時間が短いこと。何より一緒に働きたいと思える人が大勢いた」と強調する。双日は人材育成に注力しており、役職に必要なスキルを設定。必修科目に合格しなければ昇格することができないシステムになっている。新入社員は5年以内に貿易実務、会計などの社内試験と簿記・TOEICの社外試験を突破し、かつ海外研修を経なければ次のステージには進めない。海外研修の内容や期間は業務によって異なり、長い場合は数年海外に派遣される。「通常は業務のなかでスキルを身に付けると考えるが、双日は逆。必修科目に受かっていないのに仕事ができるはずがないという考え方だ」と説明する。
 
 一見、世界で華やかに活躍しているイメージの商社のビジネスパーソン。しかしその実態は、「皆さん毎日本当に孤軍奮闘されている。訪問先から帰ってきて、『上手くいかなかった』と肩を落とすこともしばしば。突撃して壁にぶち当たって玉砕して、それでも諦めない人が結果を残す」と強調する。


進化の出発点


 時が経つにつれ、「この時世に生まれた理由」を日本の将来と重ね合わせるようになった。「留学生として、日本でキャリアをスタートできたことはかけがいのない経験。日本は将来のどこかの段階で世界のリーダーになるはず。その日本は留学生など異なるバックグランドをもつハイブリッド型の人材が中心となる」と確信を抱く。さらに、「今は日本を進化させる出発点。パイオニアになる環境が留学生にはある。一緒に新しい時代を作る仲間になってほしい」と留学生に熱いエールを送る。



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