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留学生の就職支援
 第1回 現場から見える課題

神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
栗原 由加 氏

神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部日本語コースは、在籍する学生全員が外国人留学生だ。栗原氏は、日本語教育から留学生のインターンシップ、就職支援まで、現場の最前線で留学生の教育に携わってきた。そこで感じる留学生支援の問題点や今後の在り方について、数回に分けてお話を伺う。

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栗原 由加
東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業、大阪外国語大学大学院言語社会研究科国際言語社会専攻日本コース博士前期課程修了、大阪大学大学院言語社会研究科言語社会専攻博士後期課程修了[博士(言語文化学)]。財団法人日本品質保証機構退職後、京都大学・関西学院大学・大阪大学・同志社大学等非常勤講師を経て現職。

 日本での就職を希望する留学生の増加に伴い、就職支援の必要性が指摘され、省庁や大学レベルでも様々な支援策が出されている。しかし、就職後の定着も含めて考えると、どのような策が有効なのか答えが見いだせない状況だ。「外国人社員はすぐにやめる」と言われることもあるが、その実態と背景をよく見る必要がありそうだ。


 「就職支援」が引き起こすギャップ
学生にとって、就職はスタートでありゴールではない、と栗原氏は話す。就職支援では、支援する側もされる側も、まずその認識を持つことが大切だ。就職をゴールだと考えることで起こる問題はいくつもある。何とか内定さえ取れればよいと考えて、選考突破のための就活ノウハウばかりを練習する。履歴書やエントリーシート等の内容を完璧に手直しする。そのような支援のおかげで運よく内定が取れて入社したとしても、入社早々、本人の能力も志望動機も「事実と全く違った」ということになれば、仕事を続けていくのは難しい。

 特に人手不足と言われる中小企業にとっては、やっと採用した新卒社員が早期に退職してしまうダメージはとても大きい。採用までに割いた時間や労力はもちろん、留学生新卒採用の場合は、採用のために在留資格取得にかけた労力まで無駄になる。「内定さえ取れれば」という認識で、就職後のことを考えずに就職支援を行うことは、留学生本人にとっても採用企業にとっても不幸な結果を招きかねない。


 留学生や支援する側ばかりの問題でもない。現在の日本の就職活動における、「飾る」やり方にも問題があると栗原氏は指摘する。多くの企業が、採用活動の中で自社の良い面のみをアピールして、応募者を募る。学生たちは、内定獲得を目指して、自分の良さを最大限にアピールして、魅力的な文章と好感を持たれる話し方の練習をする。お互いが飾った状態でお見合いをしたあげく、飾りを取って働く時になって初めて、現実に直面する。この就職活動のやり方の負の影響を大きく受けやすいのが留学生だ。互いの「飾り」の大きさが分からずに、入社した後に初めて知る会社の厳しい面や、はっきり言葉では示されないが重要視される日本独自の企業文化。学生と社会人の大きなギャップにぶち当たる。

「率直」になる努力
 異文化適応力はグラデーションだと栗原氏は話す。異文化での生活や仕事に違和感をあまり感じない人から強く感じる人まで、色々な人がいる。異文化を経験する中で、その国で働きたいと思う人もいるし、やはり母国に帰って仕事をしたいと思うようになる人もいる。また、「日本で働く」と言っても、その働き方には、日本企業で働く、母国系の企業で働く、起業するなど様々な方法があり、日本で働きたい理由も人によって様々だ。当然留学生にも様々な人がいて、様々な考え方がある。どこでどのような働き方をするのか、決めるのは本人である。その中で、入社後のギャップを防ごうと思えば、本人と企業の意志決定が、「正確な情報」によって行われるようにすることが大切である。

 このギャップの問題に取り組む方法として栗原氏は、企業も学校も学生も、意識して「率直」になる努力をすることが大事であると話す。飾らない、偽らない。採用側は、判断材料として、あらかじめ、「日本企業はこういう価値観・考え方を大事にしている。異文化の中で働くということは、そこを尊重して合わせていくことも必要である」という情報をきちんと伝えておくべきである。
外国人を社会の一員として受け入れるという前提であれば、就職支援とは、留学生が会社の現場で働くことを想定したサポートである。それは、留学生を外国人として特別扱いし、世話をすることとは違うと栗原氏は指摘する。日本語が上手だ、外国でよく頑張って素晴らしい、分からなかったら教えてあげる、と優しく助けてもらうことに慣れた留学生が会社に入れば、頑張っているだけで評価されることはなく、日本語を間違えると嫌がられるという、日本人にとっては当たり前の現実とのギャップにショックを受けることになる。

 神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部日本語コースでは、インターンシップが単位化されているため、在籍する留学生全員が企業でのインターンシップに必ず参加する。コロナ禍でもインターンシップを実施する工夫として、出勤にかえて週一回程度の会社訪問を行い、訪問日以外は教員が業務指導するという、今までにない新しい手法に取り組んでいる。その中で栗原氏は、インターンシップ指導の際は、日本企業の考え方・大事にしていることを意識して教え、評価基準に取り入れているという。期限を守ること、情報は過不足なく的確に伝えること、簡潔に話すこと、よく話を聞くこと、分担・協力して業務にあたること、お客様のために良い仕事をすることなど、社会人としては常識的なことだ。また、話している内容が分からない、発音が悪くて聞き取れない、日本語が間違っている、期日を守れないものは評価の対象にならないと、学生の不足な点は率直に指摘し、改善方法もアドバイスする。

「連携」の大切さ
栗原氏は、留学生の就職支援を行う上で最も大切なことは、「相手があることだから、相手の意見を聞き力を借りる」ことだと話す。社会人として何が求められているのか、就職支援の中ではどのようなことを留学生に伝えるべきなのかは、留学生の採用を希望する企業側の価値観や事業についての情報を得て、初めてわかることである。そのため、就職支援を行う側と採用側の「連携」は欠かせない。現状では、学校や企業などの連携の必要性は多く語られるものの、大学や企業がそれぞれの立場からの要望や正論を発することに留まっていたり、どちらかが気を遣い本当のところが言いにくい、等のケースもある。栗原氏は、インターンシップ受け入れ先企業の開拓で多くの企業を回り、実務担当者や責任者の話を聞いて信頼関係を作る努力をしてきたし、これからも努力を続けると話す。また、大学と企業との連携のスタイルは一通りではなく、相手企業の数だけあると柔軟に考え、関心を持ってもらえる人や組織を探し、協力を得て、無理なくできることから始めるのが現実的だとも話す。自身の企業での勤務経験も生かして、より広い視野に立って支援策を模索し、留学生の指導にもあたる。就職もインターンシップも、企業という受け入れ先があってこそ成り立つものである以上、企業側の率直な話を聞いた上で、留学生にも企業にもプラスになる方向・方法を試しながら支援を行っている。

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・連携
・相手があることは相手の意見を聞き力を借りる

・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは

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