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留学生の就職支援
留学生の就職支援 第10回 
対談⑨中小企業のマッチング

栗原由加 氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長

画像の説明

藤岡義己 氏
兵庫県中小企業家同友会 代表理事
株式会社イーエスプランニング 代表取締役



会社規模、4つの類型 マッチする企業の探し方

日本にある全企業数の約99・7%が中小企業で、働いている人の約70%が中小企業で働いている。また、新卒として日本で就職した留学生のうち、約70%が中小企業に就職している。一方で、就職支援の現場で耳にする情報の多くは、大手企業や中堅企業への就職を前提としたものが多い。今回は、「中小企業のマッチング」に焦点を当てて、兵庫県中小企業家同友会代表理事の藤岡氏にお話を伺った。(以下、敬称略)

「会社規模」の視点
(栗原)藤岡さんは、ご自身の会社経営や兵庫県中小企業家同友会(以下、同友会)の活動を通じて、新卒の学生と中小企業とのマッチングについて、どのようにお考えですか。

(藤岡)まず、中小企業の規模について考えることが必要です。一口に「中小企業」と言っても、その規模によって経営課題や特性が異なります。

同友会を例に挙げますと、現在およそ2300社の会員企業があり、従業員数が5名以下の企業が46%、6名~20名が34%です。つまり、従業員数20名以下の企業が8割です。従業員が5名以下の会社は、スタートアップの段階なので、組織的な活動はできていませんが、入社すると、早くから多くの仕事を担当するため成長機会が多いです。従業員数が20名~30名の会社では、総務部がないことが多いです。社長が様々な役割をこなしながら、採用・教育についても責任を負って業務を担当しています。社員が40~50名になると、総務部が確立され、採用や教育に専任の担当者を置けるようになり、組織的に採用・教育に取り組むことができます。このあたりから、新卒採用に挑戦する会社が増えます。

(栗原)規模によって会社の特性が異なるのですね。会社の規模と学生のマッチングの問題には、関係がありますか。

(藤岡)関係があります。自ら起業したいと志向するような学生は、アーリーステージでこれから伸びていきそうな5名~10名の会社でスタートアップを体験することが良いとも思います。一方、「私は安定的に仕事をしたい」という希望がある学生は、総務部がある50名以上の規模の会社が良いでしょう。学生の仕事に対するモチベーションや、「何に価値をおくか」は様々ですから、働く上で、自分はどのような働き甲斐を求めているのかを明確にすることが、会社選びの上で一番大事なポイントだと思います。社員5名の会社では、1人の戦力は20%、50名の会社だと2%、1万名だと~、と会社規模によって、担う仕事のパーセンテージや期待されることの幅や量は異なってきます。その点を学生にわかりやすくアナウンスする必要があると思います。早くから色々な仕事を任されることに対して、「こんなことまでやるの?」と驚きうろたえる人もいれば、「こんな事までさせてもらえるんだ!」と喜びややりがいを感じる人もいますから。

(栗原)会社の規模と「定着するかしないか」という問題との関係については、いかがでしょうか。

(藤岡)大学の先生方や、学生の保護者の方には、「就職するなら大手企業が良いに決まっている」という考えもあるようですが、大きな会社であれば辞めないかというと、全くそのようなことはありません。やはり、やりたいこととのマッチングなのだと思います。

「4つの類型」の視点

4つの類型
(栗原)藤岡さんが提供してくださった「4つの類型」(上図)について、教えてください。

(藤岡)こちらは経産省(中小企業庁)が出している「中小企業白書」の2020年版に初めて掲載されたもので、中小企業・小規模事業者に期待される役割・機能を4つの類型に分類し、企業の特徴や実態を分析することに使用されているものです。この類型は、企業が、自社のゴール、どこを目指すかを考える材料となります。ご覧の通り、それぞれの類型によって、目標とするところが異なります。

グローバル型は、海外需要の獲得の役割が期待される企業で、組織的拡大や海外進出を目指します。目指す先には中堅企業・上場企業があります。

サプライチェーン型は、大手企業のサプライチェーンの需要な位置に組み込まれている中小企業です。例えば、親元企業からの「中国に進出するから、一緒に進出してくれないか」という要望に応えて、海外進出をするような企業です。製造業や流通系にもこの型が多く、地方の中核・中堅企業はこれで伸びていく場合もあります。売上規模は200-300億円ほどです。

次の地域資源型は、私の会社もそうですが、地域資源の活用や雇用の下支えの役割が期待される会社です。当社は、神戸の経営資源は「土地」であると考え、神戸の土地を活かして駐車場運営などをしています。
先日、大手企業の方と話をしていて、その方から「神戸で一生懸命やってるなら、当然全国展開を目指すんでしょう」と言われました。私が、「全くそのようなことは考えていません。神戸の土地にこだわっているので、神戸の土地や地主さんに焦点を当てたビジネスをこれからもやっていきます」と答えたところ、相手の方はとても驚かれていました。「すべての会社が大きくなること、全国展開することを目指している」と思われていたようです。

4つ目の生活インフラ関連型は、中小企業が圧倒的に多いです。地域コミュニティの生活を支える会社で、教育、医療、福祉、ガソリンスタンドなど様々です。

このように、先ほどの「会社規模」とは別に、「類型」もあることを整理して考えると、この会社はどのようなところを目指し、今何に取り組んでいるのかが見えてきます。

(栗原)「4つの類型」の視点は、学生が企業を選ぶ時に、どのように生かされますか。

(藤岡)全国・世界を相手に仕事をしたいのであれば、グローバル企業や上場企業に行ったら良いですし、そこが難しければ、サプライチェーン型を目指してみる。一方で、素晴らしい能力を持っている学生の中にも、「この地域で働きたい・活躍したい」と希望する学生がいるので、そのような人は地域資源型の会社に入って頑張ったら良い。私は、「就社」ではなく「就職」の考え方の方が健康的だと考えています。外国人留学生の場合なら、10年働いて、転職して、これまでに身につけた経験を活かして活躍しても良いし、経験や技術をもって母国に帰っても良いのです。

自分に合う中小企業をどのように探すか

(栗原)自分に任される仕事が拡大していく可能性に満ちているという点で、中小企業での仕事に魅力を感じている外国人留学生は多いです。一方で、学生にとって、自分のやりたいこととマッチする中小企業を探すことは、とても難しいという現状があります。どうすれば良いでしょうか。

(藤岡)これは、学生側の問題というより、求人情報を出す企業側の問題だと思います。企業は、情報の出し方を工夫すると良いでしょう。例えば、企業規模と「4つの類型」をわかりやすく図で示して、現在の課題とクリアしていきたいことや、5年後10年後目指すビジョンや会社の姿を書いたら、学生にはすごく分かりやすいアナウンスになると思います。

(栗原)そうですね。学生達が知りたいことは、今この会社が何を目指していて、何をクリアするために学生を採用したいのか、ということです。それがはっきり示されれば、自分がどのように、この会社に関われるかを考えることができます。

(藤岡)先日、栗原先生から外国人留学生たちの現状をお聞きして、思った以上に地元で働きたいと考えている学生が多いことに私は大変驚きました。採用に困っている中小企業が多いのですが、地元にそのような学生たちがたくさんいるということは、知りませんでした。お互いに、分かっているようで相手の現状を知らない部分が多くありますね。今後は、学生と経営者の接点がより増えていくと良いと感じます。経営者は面白い話をする人が多いですよ。学生が何のために大学に行っているかと言えば、「世の中で活躍するため」だと思います。ならば、現在世の中で活躍している人の話を聞くことが学びになり、自分の目指したい方向を決める際の貴重な判断材料になるのではないでしょうか。


・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは
 第6回 対談⑤留学生の情報源
 第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
 第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
 第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
 第10回 対談⑨中小企業のマッチング
 第11回 対談⑩製造業の人手不足
 

向学新聞2024年1月号目次>留学生の就職支援 第10回 対談⑨ 中小企業のマッチング


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