世界初の「おいしい冷凍」　　細胞破壊押さえ食感を維持

　今月は、世界初の瞬間微粒子凍結冷蔵庫を開発した三菱電機株式会社の、冷蔵庫営業課専任である望月信明氏にお話をうかがった。

「過冷却状態」を利用
――瞬間微粒子凍結冷蔵庫とはどのようなものですか。
望月　 ものが凍結するためには氷の「核」となるものが必要ですが、凍結温度を過ぎても、この氷核を作らないように冷却した状態を「過冷却」と言います。過冷却状態の水はマイナス５度くらいになっているのに凍りません。われわれは、この過冷却状態の水が、外部からの衝撃や急激な温度変化による刺激を受けると瞬時に凍り始める性質を応用し、食品の細胞破壊を抑えて「おいしい冷凍」を実現する家庭用冷蔵庫を世界で初めて（※１）開発・発売しました。弊社ではこの機能を「瞬」冷凍と名づけています。
　 食品に強い冷気を吹き付けて徐々に外側から凍らせる従来の冷凍では、外側と内部で凍る速度に差異が生じるため、内向きにとがった針状の氷の結晶ができ、それが細胞組織を突き破るため、解凍時に肉汁などがあふれ出て、大幅に食感が落ちてしまっていました。
　 いっぽう、過冷却状態を経て生成される氷の結晶は非常に細かいため、細胞破壊が抑えられ、食品本来の味や食感を落とさない高品質な冷凍が実現できます。カレーのジャガイモや筍などこれまで冷凍に不向きだった食材も冷凍可能になり、冷凍する前とほとんど変わらぬ食感が楽しめます。
　 「瞬」冷凍を実現させるために、直接冷気を食品に当てない独自の気流制御を行い、庫内（「瞬」冷凍ルーム）を均一に冷やします。また、弊社のルームエアコン「霧ケ峰」の技術も用いられており、赤外線センサーが食品自体の温度を測定し、食品の表面と内部の温度差を抑えて均一に冷やしていくことで、過冷却状態を作り上げます。食品が十分冷えた後、一気に低温の冷気を当てその刺激で過冷却状態を解除して、食品全体に瞬時に微細な氷核を生成します。この一連の課程は食品投入後、ボタン操作一つで全て自動で行います。例えば夜に食品を入れれば朝にはおいしいホームフリージング食品ができています。
　 また、野菜室にも、保存している野菜のビタミンＣを増やすという世界初（※２）の機能がついています。野菜に光を当てることによって光合成作用を促し、ビタミンＣのもとになる還元糖というエネルギーを作ります。３日たてば購入時よりもビタミンが１・５倍増え、レタスやキャベツは緑化し見た目にもおいしく変化します。
　 これらは、日本人の食品のおいしさを追及する意識や、四季があって四季折々の旬の食品を保存するために、きめ細かい温度管理を必要とする日本の食文化の背景があって、初めて生まれた独自の技術だと言って良いと思います。
　 おいしさだけでなく使い勝手のよさも重要なポイントです。約マイナス７度の新しい温度帯による「切れちゃう冷凍」も弊社が開発したものです。これは冷凍した食品を包丁で簡単に切ることができるため、これまでの小分けや解凍の手間を省くことができる機能です。また、従来は、例えば肉を解凍するのに放置しすぎて結局ドリップが起こり、うまみを流出させてしまうことがあり、この点にご不満を抱く主婦の方は多かったのです。そこで、従来の約マイナス１８度より少し高めの約マイナス７度という温度帯を開発し、包丁で簡単に切れる固さで冷凍ができるようにしたところ大変好評で、今まで１０年近く搭載し続けています。
　 実は、このマイナス７度という温度帯は、過冷却に適した温度帯でもあります。従って「瞬」冷凍した食品をそのままマイナス７度の温度で冷凍保存し、取り出してからはすぐに調理するといったことも可能になりました。おいしさと使い勝手を融合した画期的な冷凍が実現できたと思います。「瞬」冷凍はまさに、電子レンジの逆の発想で、ひとつの新たな「調理器具」として提案できると思っています。

――日々どのような思いを持って製品を提供して行こうとしていますか。
望月　 単に新しい製品だけ提供したいとは考えていません。例えばお客様の間に「冷凍はおいしくない」というイメージがあり、「今よりもっとおいしく健康的な食生活を送りたい」という願望があるとすれば、そういう不満点を可能な限り解決してさしあげようという思いが結果的に新しい機能につながっていくわけです。営業担当者としては、常にお客様に近いところに入って潜在的なニーズを掴み取る努力をしていきたいです。「これを使えば食生活が変わりますよと、お店の販売員に言われて買って、実際に使ってみたら本当に良かった」という声を聞くと、メーカーとして開発してよかったと思います。そういう〝お客様〟を如何に多く〝作る〟かということこそが、メーカーとしての使命だと思っています。

※１／６ドア・５ドア独立氷室搭載の家庭用冷蔵庫において、過冷却現象を利用した冷凍システム。２００７年８月現在（三菱電機調べ）。
※２／ＬＥＤ光で葉物野菜のビタミン生成を促す野菜室。２００４年８月現在（三菱電機調べ）。