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国際宇宙ステーション 


人類初の「国境のない場所」  有人宇宙技術を協力して開発


 今月は、国際宇宙ステーション事業の推進に携わる、宇宙航空研究開発機構の山浦雄一氏にお話を伺った。

十五ヶ国が協力

――国際宇宙ステーション(ISS)とは何ですか。
山浦:ISSは、地上約400㎞の上空に建設される巨大な有人宇宙施設です。1周約90分、時速約2万8000㎞という高速で地球を周回しながら、地球や天体の観測、実験・研究などを行っています。ISSは人類にとって初めての「国境のない場所」です。日本、米国、カナダ、ヨーロッパ、ロシアの計15カ国が協力して計画を進めており、これほど多くの国々が技術を結集するプロジェクトはこれまでありませんでした。
  ISSは人類史上最大の宇宙施設で、完成時の室内の広さはB747ジャンボ機1・5機分相当、全長は100mもの大きさとなります。建設はすでに最終段階に入っており、宇宙飛行士が常駐して、宇宙ならではの微小重力環境を利用した活動を行っています。ISSの施設のうち日本が運用しているのが「きぼう」日本実験棟です。日本で初めての有人宇宙施設で、船内実験室と船外実験プラットフォームを備えています。船内実験室では、無重力環境で生物の発育、材料の結晶成長、流体現象などが地上とどう異なるのかを調べる科学実験を行います。また、宇宙で高品質なたんぱく質結晶を作り難病の治療薬を地上で開発するための研究、飛行士の健康管理のノウハウを医学に還元する研究など、地上の生活に役立ち、人類の将来に望みを託す様々な実験を行っていきます。実験環境は民間企業にも開放し、新規の商品開発・ビジネスに役立ててもらえるようにします。船外プラットフォームでは、オゾン層破壊などの地球の現状を宇宙から捉えて解決策の糸口を見つけるための観測や、宇宙のX線天体を世界最高の高感度で捉えて宇宙の構造・進化過程を解明するための観測などを行っていきます。
  同時に日本は、宇宙ステーション補給機「HTV」の開発を行っています。これは宇宙飛行士の滞在に欠かせない水や食料、およびISSの運用と実験に必要な装置を運ぶための物資輸送機です。HTVがISSに係留中は飛行士がISSからHTVの内部に入って作業をします。ISS全体の運用に不可欠なもので、年に1回の打ち上げを計画しています。初号機はH―ⅡBという国産ロケットを使い2009年夏頃に打ち上げる予定です。HTVは高度な制御技術によって飛行し、ISSから10mの位置で停止した後、ロボットアームが引き寄せて結合します。今後、HTVをより発展させて、物資を地上に回収したり月探査に利用するような、新しい輸送機についても検討を進めることにしています。
  日本は、ISS計画で技術的なチャレンジをしながら開発を進めてきた結果、世界レベルの有人宇宙滞在の技術を得ることができました。人間が宇宙に一定期間住むには、何よりも安全に暮らせるよう設計し、設計通り安全なのかを地上で確認するプロセスが必要で、そのために必要な技術を獲得しました。例えば、無重力状態では対流が起きず空気が同じ所にとどまってしまうので、「きぼう」室内では空気を隅々まで循環させます。空気を循環させることによって、飛行士自身が吐く二酸化炭素で窒息することはありませんし、火災検知が容易にできます。船内で使う材料は、燃えにくく、また有害ガスを出さないものを選びます。宇宙空間には小さな宇宙ごみが秒速数キロ~十数キロのスピードで飛び交っていますが、それらが当たっても大丈夫なように防弾チョッキの繊維でできた鎧をISSの外側につけます。地上ではライフル銃より速い特別な打ち出し装置で実験し、その構造・厚さを決めています。万一穴が開いても船外活動をしてその部分を交換できるよう、適度な大きさのユニット構造にしてあります。すべて人間の安全を優先し、各国と意見交換しながら開発してきました。

国際的な信頼を得る

  日本の宇宙基地計画は1985年に動き出し、約四半世紀のうちに開発の規模が大きく拡大しました。「きぼう」ができる前はスペースシャトルの荷物室に実験設備を積ませてもらい、1~2週間で決められた実験をしてシャトルとともに戻ってくるしかありませんでした。ISSに飛行士が常駐できるようになったことで、人間の判断力や創造性をフル活用し、宇宙の現場で対応しながら開発を進められるようになったのです。
  また、日本は「きぼう」の建設を通じて、約束を守り安定した活動を進め、技術的に優れた「きぼう」やHTVを開発してきた点などを評価され、国際的な信頼を得ることができました。次なる月探査に向けた議論では、この実績を踏まえて日本も信頼される国際パートナーとして重要な役割を果たしていくことでしょう。
  有人宇宙開発が子供たちに夢と希望を与えられることの意義は大きく、今後は「きぼう」を使い教育や利用の面でアジア諸国と協力していくことも考えています。「地球を上から見ると国境はない」。帰ってきた宇宙飛行士のそんな話を聞くと明るい未来へのイメージが湧くのです。国と国が協力して一つのものを作り上げ、それを有効に応用すること。人類はそれが出来るのだという希望を持ったメッセージを発信し実現していくことが、ISSおよび日本の大きな使命であると考えています。