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ナノバブル 


生命力活性化させる消えない泡  がん細胞抑制や殺菌の効果も


 今月は、ナノバブルの開発を進める独立行政法人産業技術総合研究所の高橋正好氏にお話を伺った。

世界最小の泡の開発

――ナノバブルとは何か教えて下さい。
高橋:ナノバブルは1mmに1万個並ぶほどの目に見えない非常に微小な泡で、水中でも消滅せずに残るのが特徴です。この泡は生命力を活性化させる作用を持つことが確認されています。水にナノバブルを混ぜることで弱っていた魚を復活させる効果や医療面でも様々な可能性が期待されています。これまでに動脈硬化の原因となる接着分子の発生を劇的に抑えたり、ガン細胞を抑制する効果が出ています。また、牡蠣は通常冷凍すると死んでしまいますが、ナノバブル水の中で二日間生かしておいてからマイナス20度で冷凍保存し、24時間後に再びナノバブル水の中で解凍すると生き返ったという驚くべき結果が出ました。このように臓器保存分野への利用も今後期待されています。
  また、食品関係では現在かまぼこの殺菌に使われています。ナノバブルで殺菌したかまぼこは通常のものよりも弾力があり、魚が本来持っている味が出るため非常においしいのです。そのほか、生ガキのノロウイルスを除去することも可能です。今までの塩素による殺菌では、菌は殺せてもウイルスの除去までは困難でした。高濃度の塩素で殺菌すればウイルス除去も可能なのですが、人体に害を及ぼします。ナノバブル水を使うことで、安全かつ安心な殺菌が可能になるのです。
  さらに、ナノバブル水を入れた水田で無肥料・無農薬で手を加えず稲を育てる実験をしたところ、雑草が生えなかっただけでなく、従来から無農薬栽培を行っていた水田と比べても2割近く収量が多かったのです。これには様々な要因が考えられますが、ナノバブルの効能が特定できれば、今後の農業が変わるかもしれません。

――ナノバブルはどのようにして発生させるのでしょうか。
高橋:マイクロバブルというナノバブルよりも少し大きい泡に物理的な刺激を与えて生成します。マイクロバブルは表面張力による加圧と気体の溶解が原因で放っておけば小さくなって消滅します。ところがこの泡を物理的な刺激によりたたきつぶしてやると表面にイオンが濃縮して気体の溶解を抑制し、極微小気泡として安定化します。これがナノバブルです。このような製法を実現したのは世界で日本が初めてです。
  マイクロバブルは表層に浮かんで行かずに水の中で小さくなっていくので、酸素などの気体がどんどん水中に溶けていきます。これは水中の酸素濃度を上げて生命力を活性化する要因の一つだと思われます。また、泡が縮小する過程で表面のイオン濃度が上昇しますが、これはエネルギーの蓄積を意味しています。そして安定化には至らずに消滅した場合、このエネルギーはフリーラジカルとして解放されます。この作用を利用して汚染された水を浄化することができます。

――なぜ泡の研究を始めたのですか。
高橋:私はもともと鉱山災害の際の生命の安全に関わる研究をしていたのですが、日本の炭鉱はどんどん衰退していき研究内容に限界が来ていました。それで、医療分野の知識も深めようと思い、医科歯科大学のある先生に新しい研究分野について相談をしたのです。ダイビングが趣味だというその先生とお話するうちに、ダイバーが水中で急浮上する際に起こる潜水病に関心を持ちました。これは、血液中に溶けた窒素が急激な圧力の変化で気泡化し、半身不随やときには死亡にまで至る病気です。私はこの現象に着目し、気泡化するには気泡のもととなる小さな泡の核があるのではないかと考えました。これが泡の研究を始めたきっかけです。

――どんな姿勢で研究に臨みましたか。
高橋:泡の持つ可能性を世に知らせたい。それが私の研究姿勢でした。泡の核となるものの存在を知ったとき、これは何かに役立つかもしれないと直感しました。当初は研究費もほとんどもらえず注目もされませんでしたが、研究を続けているうちに同じような研究をしている人達と偶然出会うようになり、ナノバブルという不思議な泡の開発に至ったのです。今は可能性を信じて研究を続けて良かったと、出会いに感謝しています。