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BOPビジネス 


ビジネス通じ持続可能な社会貢献  企業と現地社会が相互に繁栄

 今月は、BOPビジネスを支援する経済産業省の小町僚明氏にお話を伺った。


途上国の課題を解決

――BOPビジネスとは何ですか。
 小町 BOPビジネスの定義については、多様な議論・考え方が存在しますが、経済産業省では、主に途上国の低所得階層であるBOP(Base of the Economic Pyramid)と呼ばれる層を対象とし、持続可能な、現地の社会的課題の解決に資することが期待される新たなビジネスモデルとして扱っています。BOP層は、約40億人と世界人口の7割を占め、その購買力は5兆ドルと日本の国内総生産に相当すると言われています。
 例えば、企業がきれいな水を提供することで、途上国の衛生問題を解決するという場合、従来は慈善活動として行われていましたが、慈善事業は景気悪化等の変化により撤退されやすいとも言われ、これは現地にとっても望ましいことではありません。そこで、企業がビジネスとしてきれいな水の提供に取り組み、そこから利益が得られるならば持続可能性が生まれます。また、消費を通じた社会問題の解決だけではなく、現地の人々自らに流通や販売に参加してもらうことを通して雇用や所得の向上も期待されます。さらに、企業にとっては、今後中間所得者層となるネクストボリュームゾーンの獲得にもつながります。
 こうした産業政策と経済協力政策の双方の観点でBOPビジネスは注目を集めています。

――現地でニーズのあるものは?
 小町 水や電気、医療等はもちろんですが、今では、携帯電話やパソコンなどの情報通信機器へのニーズも強いようです。こうした通信網の普及は、農作物の適正価格の把握にもつながります。
 また、現地にはまだ顕在化していないニーズもあると考えられます。例えば石鹸の場合、欲しくても買えなかっただけではなく、そもそも、その必要性を知らないので石鹸を買って手を洗う発想がなかったとも考えられます。そこで、技術やシーズを持っている企業が「こういう商品を提供したら良いのではないか」と潜在ニーズを発掘するようなアプローチの仕方も考えられると思います。

――BOPビジネスの実例は。
 小町 例えば、米国のユニリーバは、援助機関や現地のNGOと連携して「石鹸で手を洗おう」という普及啓発とともに、小分けにした低価格の洗剤を、現地農村女性を雇用して個別訪問販売をしています。また、日本ポリグル株式会社は水質浄化剤を製造している大阪の中小企業ですが、バングラデシュ等できれいな水の普及に取り組んでいます。

――企業を支援する動きがありますね。
 小町 経済産業省では10月に「BOPビジネス支援センター」を立ち上げ、ポータルサイトによる一元的な情報提供、関係者間の連携促進等のマッチング支援、相談窓口対応を行っています。
 また、現地の情報収集では農村部などに入っていく必要がありますが、どこに行って誰に会ったらいいのかわからず、仮にキーパーソンがわかっても特定人物を通してしか会ってくれない場合があるといいます。そのため、既に現地の人々と信頼関係を築いているNGO等との連携が重要な一つのポイントです。こうした的確なパートナーを見つけるために、現地にネットワークを持つJICAやJETROの現地事務所との連携も進めています。

――企業どうしの連携によるビジネス展開もあり得るのでしょうか。
 小町 経済産業省F/S調査事業で出会った企業同士が連携してBOPビジネスに取り組もうとしている例もあります。株式会社日立ハイテクノロジーズとヤマハ発動機株式会社はもともと太陽光発電システムと浄水供給装置によるBOPビジネスをそれぞれ行おうとしていましたが、二社で連携し、太陽光発電システムを使って浄水供給装置を動かす仕組みの検証をインドネシアで始めています。

――BOPビジネスが現地で受け入れられるのに必要なことは。
 小町 良い技術であっても、現地にそのまま持って行くのでは価格面等で受け入れられないこともあり、現地に合ったカスタマイズが必要になってきます。日本企業の強みは「創意工夫」を伴う技術です。相手が何を欲しているか、何をしてあげたら喜ぶかといったニーズをしっかりと捕えて取り組むことが重要です。
 また、搾取される人がいても、あるいは企業が身銭を切って良いことをするべきだという論理でも、事業としては成り立ちません。企業や現地、NGO等の様々な関係者が対等な「Win―Win―Win」の関係を構築して相互に繁栄を目指すことが重要です。こうした、BOPビジネスのようなサステイナブルな取り組みは今後ますます必要とされてくるだろうと考えています。



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