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本田技研工業株式会社  


シリーズ「21世紀新潮流」では、時代をリードする様々な新潮流を取り上げていく。今月は水素を燃料とした究極のエコカーである燃料電池車について、本田技研工業株式会社の須田一博広報部チーフにお話をうかがった。

――燃料電池車開発の背景について。
須田:社会的にみると、燃料電池車が早く必要だと感じている方はまだあまりいないかもしれません。しかし、地球温暖化や大気汚染、石油資源の枯渇等の環境問題は深刻化しており、それらに根本的に対応していくためには、今後二酸化炭素などの有害物質を一切出さない車が求められています。弊社は基礎研究を含めると10年以上前から燃料電池車の開発を続けており、2002年12月よりリース販売を開始しました。当初は実現できるかどうかも分らないかなり高い目標でしたが、ホンダの企業風土として「高い目標にチャレンジする」「他の人がやっていないことをやる」「何がなんでも一番にそれを達成する」といったフィロソフィーがあり、燃料電池車についても自社開発することになったのです。

――今回発表された燃料電池車「FCX」について。
須田:「FCX」はホンダが独自開発した車ですが、箱型の燃料電池スタック(積層体)は、カナダの「バラード・パワー・システムズ」社のものを使用しています。燃料電池スタックは、水素と酸素を化学反応させて発電し、出力をモーターに伝えるという仕組みになっています。水素は充填した水素ガスから、酸素は空気中から取り込みます。また、発生した電気を蓄えておくウルトラキャパシタという装置を弊社で独自に開発しました。一度に集中的な力が必要なときに、キャパシタにたまった電気を出すことによってスムーズな加速を得ることができます。

――開発のポイントは。
須田:普通のガソリン車と変わらない性能、使い勝手を目指して開発しています。ガソリン車に比べると余分な装置が多くありますが、努力の結果、大部コンパクトに納められるようになってきました。燃料となる水素は多量に貯蔵する必要があり、タンクは350気圧という高圧で水素を圧縮しています。したがってタンクの材質もそれに耐えられるものが開発され用いられています。破裂しない保安基準をクリアするため一般車と同様に衝突テストを行い、事故の際に大丈夫かどうかの確認も行っています。燃料電池車の開発は、システム開発や素材、レイアウトなどの総合的開発であるといえます。

――世界の燃料電池車開発における日本の位置は。
須田:ガソリン車とほとんど変わりなく町中を走れる燃料電池車を最初に世に送り出したわけですから、日本は世界で一番進んでいるのではないでしょうか。ただ車自体が数台しか出ておらず高価であるため、一般の人はまだ乗れない段階にあります。今後普通の車と同じように乗れるようになるには、2030年ぐらいまでかかるだろうといわれています。ですから弊社の技術者も言っていることですが、いわば「駅伝で最初の一区をトップで次の人にバトンを渡したにすぎない」という状態なのです。国内のメーカーがこれからもトップで走り続けられるかどうかは今後の努力しだいです。

――普及への政府の取り組みは。
須田:水素を充填できるスタンドの増設など、インフラを増やしていくことは民間企業だけでは限界がありますので、バックアップをしていただきたいですね。

――今後の開発について。
須田:燃料電池車によって車の歴史に新たな扉を開いたということは言えると思いますが、まだスタート地点に立ったところです。大きな課題は、気温0℃以下だと水素と酸素の反応で生じる水が凍ってしまい車を走らせられないことで、これを改善することが必要です。さらに、システムを小型化し居住性も良くしていかなければなりませんし、お客さんがガソリン車と同等の価格で買うことができるようにコスト削減に努力していかなければなりません。