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三鷹光器株式会社  


今月は、スペースシャトル搭載用カメラをNASAに提供した実績を持ち、宇宙観測機器などの設計制作を手がける三鷹光器株式会社の中村義一会長にお話をうかがった。

大人の背中を見て覚える

――もの作りを志したきっかけについてお聞かせいただけますか。
中村:もの作りがただ好きで今までやってきました。私は少年時代、戦争中だったこともあり、小学校4年生までしか勉強できませんでした。ですから今も漢字が全く読めないし、数学も十分にやっていません。そういう私がもの作りをできたのは私の父親のおかげだと思います。
  父は東京大学東京天文台の創立に関わった一人で、三鷹で天文台の用地を開拓したのです。用地には農家の人もたくさんいたらしいのですが、建物を作る関係上どうしても移転してもらわなければならないので、いざこざが絶えませんでした。私はそのような環境で生まれ育ったので常に村の人たちから非難され、だれも一緒に遊んでくれませんでした。ですから家に閉じこもってもの作りをするくらいしか遊ぶ方法がなかったのです。そのうちある程度大きくなると、天文台の中に逃げ込んで先生方の研究室で遊ぶことができたのですが、それは私にとって唯一の宝でした。そのときに大人の背中を見ながら本能的にもの作りを覚えていったおかげで、今があるのだと思います。

パワーの源は天体

――具体的な成果はどういったものがありますか。
中村:まず望遠鏡です。天文台で先生が望遠鏡をいじっているのを見ていれば、自ずから扱いは覚えてしまいます。私自身、望遠鏡で星を見るのが好きかといえばそうでもないのですが、望遠鏡はずっと作り続けています。
  さらに、脳神経外科用の医療機器も作っています。望遠鏡のメーカーがなぜ医療機器を作っているのかと不思議に思うかもしれませんが、巨大な10トンぐらいの望遠鏡を振り回すのも、せいぜい20㎏ぐらいの顕微鏡を扱うのも大して変わりがありません。望遠鏡の基本原理を応用することで従来の製品より機器を軽く動かすことができるものに仕上げました。また当社は人工衛星も作っているのですが、その技術も導入されています。顕微鏡が脳の上を人工衛星のように自由自在に動けるようにした結果、手術の成功率が上昇しました。脳外科手術は出血との戦いで、以前は手術に8時間以上かかることも多く、出血多量で死ぬ人がほとんどでした。途中血をバキュームで吸うため、そのたびに顕微鏡を動かすのですが、従来の製品では一旦動かすと像が見えなくなってしまい、もとの位置に戻してピントを合わせているうちにまた血が滲んでしまうのです。しかし当社の製品の場合、ピントが合ったままの状態で脳の周りを自由自在に動かすことができ、もとに戻しても全く同じ位置に来るようになっています。この点で当社は世界特許を取得しています。今はこれで手術すれば大体80%の確率で助かるようになりました。
  その他に、非接触の三次元測定器も作っています。これはオートフォーカスで1ナノメートル(100万分の1ミリ)まで読み取りができることから、ナノレベルの立体を非接触で測定できる装置としてこれも世界特許をとっています。今まで他の光学メーカーは、オートフォーカスのレンズが1ナノぐらい動いても、計算上ピントのズレは分らないと主張してきました。ならばどうしてオートフォーカスが効くのかというと、これにも天体が関係しています。当社には、変光星という明るくなったり暗くなったりする星を観測しているグループがあるのですが、その観測技術が非接触三次元測定装置に採用されているのです。
 このように当社のあらゆる製品の基礎には、天体観測機器の開発で得られた技術があります。私はいつも「天体から宝が降っていますよ、どうぞ天体を見て宝を拾ってください」といっています。次々に新しいものを作り出すパワーの源はみな天体なのです。

「必要なもの」を作る

――もの作りにおいて大切なことは何ですか。
中村:人のためになるもの、つまり「必要なもの」を作り出すことです。「便利なもの」ばかり作っていてはいけません。三鷹光器で作っているのは全部、あれば便利というようなものではなく、なくてはならない必要なものです。
  脳腫瘍やくも膜下出血で倒れるのは40代50代の人が多く、死ねばその家族が路頭に迷うわけです。その人たちを助けてあげるためにもそれは必要なものだと思います。
  また、三次元測定器は、太陽集光装置シードスタットを作るのに必要なのです。これは太陽光を集めて石炭からアルコールをとろうというもので、そのためには1ナノレベルの面精度の金型で反射鏡を作る必要があったのですが、当社はこの試みに世界ではじめて成功しました。自動車がアルコールエンジンで走れば、排気ガスによる公害はありません。また一般家庭でも、ドラム缶でアルコールを買って、そこから水素を取り出し燃料電池で電気を作れば、家庭で使う分は補えるのです。ですから、こういうものもやはり必要なものだと思うのです。