TOP向学新聞>留学生の就職支援 第8回
向学新聞2024年4月号目次>留学生の就職支援 第11回 対談⑩製造業の人材不足

向学新聞2024年1月号記事より>

留学生の就職支援
留学生の就職支援 第11回 
対談⑩ 製造業の人材不足

中作佳正 氏

中作佳正 氏
株式会社ナカサク代表取締役社長

株式会社ナカサク:1926年(大正15年)4月1日設立、
「?×!=∞」をキーワードに、産業機械の設計・製造、システム開発、受託製造、大型機械加工を行う。
本社:滋賀県湖南市

栗原由加 氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長

企業での人手不足が言われるが、とりわけ、理系人材の獲得に悩む企業は多い。日本では、理系分野専攻の学生は全体の約35%、外国人留学生だけで見た場合、理系分野専攻の学生は外国人留学生全体の約20%である。
今回は、理系人材の採用について、株式会社ナカサクの中作社長にお話を伺った。(以下、敬称略)

文系・理系の問題
(栗原)「留学生の就職支援」について話す際、話題が就職活動支援のことになる傾向があり、結果的に文系学生を対象にした話になることが多いように思います。
一方、企業側で言われる「理系人材不足」についてはあまり現状が分からないところがあります。製造業の人材不足については、どのような状況でしょうか。

(中作)日本の教育は文系の定員が理系よりもはるかに多いため、理系人材が不足してしまう構造があると思います。文系から理系、理系から文系と途中で変更すると4年で大学を卒業できなくなることもあります。専門分野を変更しにくい状況は、理系の中にもあります。工業高校でも、機械科に入ってから、電気のほうがあっているなと本人が感じても、科を移りにくい仕組みになっています。

(栗原)日本は文系理系を区別する意識が強い国だと言われていますね。大学の受験科目の事情や定員の問題、「文系の仕事」にオフィスワークのイメージがあるなど、様々な理由があると思います。

(中作)文系理系をはっきり分けてしまうという大学の受験の仕組みを変えていければ、自分が本当にやりたいことをやれる人材が増えるのではないでしょうか。本当の理系の仕事は「文理一体」です。マーケティングや経済学による発想と、その発想を実際にどのようなプログラムに落とし込んでいくかという技術の両方が必要です。

(栗原)御社での理系人材の採用状況はいかがでしょうか。

(中作)当社は従業員100-110名の中小企業なので、人集めには苦戦しています。最近はインターンシップを多く実施して、溶接や機械加工を授業でやったことがない学生に実際に経験してもらい、ものづくりの現場は「面白いな」と感じてもらえる機会を作るようにしています。また、京都先端科学大学工学部のキャップストーンプロジェクトにも参画しています。長く生徒たちと触れ合うことで、お互いのことがよくわかります。直接かかわった学生たちが当社に入社しないとしても、学生同士の中でこんな会社があると口コミで広がる可能性も期待しています。

海外からの直接採用

(栗原)御社は、ベトナムからの人材の直接採用を始めていらっしゃいますね。

(中作)はい、2022年から始めました。滋賀県から、ハノイ工科大学内での就職説明会へブース参加する企業募集の案内がきて、チャレンジしてみようと参加したのがきっかけです。説明会には他府県からもたくさんの企業が参加していました。参加した三日間の中で、会社説明をした後、面接希望者には一次面接を実施、二次面接は後日オンラインで実施し、イベント参加から約1か月後には2名の学生に内定を出すことができました。内定後は、ベトナム現地でN3~N2レベルを目指して日本語を勉強してもらい、ビザが取れ次第、来日して入社する流れです。

現地からの直接採用にチャレンジしようと思えたのは、当社にはすでに入社して5年になるベトナム人社員がいて、彼らは仕事や日本での生活に慣れているため、現地から来る新入社員も心強いだろうと思ったからです。

(栗原):聞いた話ですが、海外でも理系の高度人材は引っ張りだこで、人材獲得競争が激しいそうです。海外人材が日本企業で働く魅力は、どのようなところにありますか。

(中作)日本の強みは、製造業の技術力が高いことです。ベトナムでは、理系の中で、ITが一番人気があります。その次が電気、機械です。他の東南アジアの国々では、ITの仕事はできても、本格的に製造業でエンジニアの仕事をやりたい場合は、仕組みが小さいので難しいケースが多いのではないかと思います。マレーシアやインドも、製造業の企業があっても、どこかの企業の系列というケースが多いです。ITが進んでいても、「電気制御」となると、企業の数や技術力の質はまだ日本が高いと思います。電気や機械のエンジニアは、育てるのに時間がかかりますから。

海外からの直接採用の長所・短所

(栗原)海外からの直接採用には、どのような長所・短所がありますか。

(中作)長所は、当社のような中小企業にも、たくさんの学生が興味を持ってくれて、多くの学生と出会える点です。彼らは、「(会社規模が)大きいか小さいか」にはあまり関心がないようで、1回の説明で、多い時は80名ほどが当社のブースに来てくれました。学生たちは、日本企業に興味があり、その会社が「何をやっているか」に興味を持ちます。また、「同じ国出身の社員が何人活躍しているか」「安心に暮らせる環境か」というところが、彼らが会社を選ぶ基準になっているようでした。
 短所は、数年経ったら帰国してしまうのでは、という心配がある点です。東南アジアの方々は家族のつながりを大切にするので、ご両親が心配して、いずれ帰ってきてほしいと言うこともあります。もう一つは、日本語力の向上や、日本の生活になじめるかどうかが、人によって全く異なるという点です。同じような環境にいても、すぐに日本語を覚えたり生活になじんだりする人もいれば、そうではない人もいることは、当然のこととはいえ、難しいと感じる部分です。

(栗原)現地から直接採用した社員について、会社として日本語教育のサポートはありますか。

(中作)日本語学習のためのしくみは、現時点ではありません。やはり、現実的にサポートの核となるのは、すでに活躍しているベトナム人社員だと思います。当社のある工業団地の中でも、今はブラジル人を抜いてベトナム人が一番多くなっており、ベトナム人向けの店もできて、生活する上での不安要素は減っていると感じます。

横のつながり

(栗原)外国人材の採用・教育について、このような支援やしくみがあると良いと思うことはありますか。

(中作)横のつながりを持てる・維持できる機会があると良いと思います。一つの狭いコミュニティの中で、社員が縦の人間関係等で壁にぶつかった時に、悩みを共有したり相談したりできる横のつながりがないと、悩みが深く長引くと思います。日本人もそうなので、外国人社員ならなおさら孤独に悩む可能性が高いのではないでしょうか。滋賀県では、同じ年に新入社員として会社に入った若手社員たちに対して、1-2年に一度同窓会を実施していますが、そのような若手社員の同窓会も一回で終わらずに、継続的に実施してほしいと、県には要望を出しています。

以前、いくつかの会社から機械設計者が集まって、「機械設計の事を考える」という集まりを数年間実施していました。設計技術者同士が情報交換をして、刺激し合ってもらい、「あの会社ではこのようにしている」という情報を、オープンに自社内で共有して、では我々もマネしてみようか、となれば、会社としての成長にもつながります。外国人材も同じです。当社より給料が良いところや待遇が良いところがあるという情報交換もしてもらって、「~さんが、こういうことを言ってたよ」と、オープンに言えるぐらいの社内の雰囲気があると、会社の成長に良いと思っています。

(栗原)先進的なお話だと思います。外国人材の定着のための施策を話す時に、時々「横のつながりを」という話が出てきますが、会社を越えた横のつながり、自分たちのコミュニティの作り方について、具体的に議論されることは多くありません。様々な意見がある部分ではありますが、「外国人材が自ら定着を望む」という方向性で考えるなら、彼らが会社を越えたコミュニティで助け合う仕組みについても、考えるべきではないかと思います。


・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは
 第6回 対談⑤留学生の情報源
 第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
 第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
 第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
 第10回 対談⑨中小企業のマッチング
 第11回 対談⑩製造業の人手不足
 

向学新聞2024年4月号目次>留学生の就職支援 第11回 対談⑩製造業の人材不足


a:229 t:2 y:4