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向学新聞2024年10月号目次>留学生の就職支援 第13回 対談⑫ 社員視点での職場環境づくり
<向学新聞2024年10月号記事より>
留学生の就職支援
留学生の就職支援 第13回
対談⑫ 社員視点での職場環境づくり
栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長
業務効率や生産性向上のために、社員同士の円滑なコミュニケーションは欠かせない。外国人社員が活躍する上でも、重要なポイントになっている。
今回は、高度外国人材の採用を始めて8年となる、新旭電子工業株式会社の代表取締役社長、大島節子氏にお話を伺った。(以下、敬称略)
社内の環境づくりのための長い取り組み
(栗原)御社は外国人材の受け入れを始めて8年ですね。そして、それよりずっと前から、社員全員が関わる組織作りを進めてこられたと伺っています。今日は、ぜひ、そのお話を伺いたいと思います。
(大島)私は日ごろから、社員との壁をなくしたいと考えています。風通しが良い会社でないと、仕事がうまくいかないと思うからです。素直に話を聞ける・相談できる雰囲気や関係性です。日本人・外国人関係なく、壁ができないようにと、色々な取り組みをしていて、社員も実践してくれています。社員が幸せに働いて、良い仕事ができる環境作りに努めています。
(栗原)外国人材についての話では、最近、多様な人材を受け入れる働き方のキーワードとして、いろいろな言葉を聞くようになりました。インクルージョン、エンゲージメント、ウェルビーイングなどです。私は、大島社長の取り組みを伺うことが、こういったキーワードを理解するための助けになると思っています。
インクルージョン
(栗原)御社の社員の約20%が外国人社員ですね。外国人社員が会社にいると、どのような良いことがありますか。インクルージョンとは、多様な人々が違いを尊重されながら組織に参加することですが、大切なのは、多様性を会社全体のパフォーマンス向上につなげる考え方だと思います。
(大島)良いことは多くあります。例えば、以前は業務で使う作業手順書は、紙面のものしかありませんでしたが、外国人社員には分かりづらいです。そこで、どうしたら伝えられるか考えた結果、各工程のチームが、自分たちの作業を動画に撮り、動画の下にベトナム語を表記し、タブレットに入れて見せる、という方法をとるようになりました。この動画は、外国人だけでなく、新入社員が入った時にも活用でき、とても便利です。このような、業務改善や新しいアイデアを出すきっかけを作ってくれています。
また、明るい人柄のベトナム人が入ったことで、他の社員もいい影響を受けて、その工程のチーム全体が明るい雰囲気になった、ということもありました。
外国人社員は皆大卒の優秀なメンバーですから、日本人社員たちも、負けないように頑張ろうという意識が刺激されて、職場が活性化されると実感しています。
エンゲージメント
(栗原)エンゲージメントとは、社員が会社や仕事に持つ愛着や熱意のことです。大島社長ご自身は、どのような意識で外国人社員に接しておられるのですか。
(大島)当社では、2016年から、高度外国人材の採用を始めて、現在約70名弱の外国人社員が働いています。彼らが入社して、初めて会う時に私が伝えることは、「私はあなたたちの日本のお母さんだから、困ったことがあれば何でも相談しなさい。そして、社員は全員あなたたちの兄弟姉妹だから、同じように、困ったことがあれば相談すれば皆聞いてくれる。会社全体があなたたちの家族だ。仕事では会社のルールがあるから、素直な気持ちできちんと従ってほしい。」ということです。
(栗原)入社した会社で、最初に社長からこのように言われたら、とても安心感があると思います。コミュニケーションで、工夫されていることはありますか。
(大島)外国人社員を採用し始めた時、いろいろ調べて、こちらからよく声をかけることにしました。廊下ですれ違う時に「最近どうしてる?」「困ったことはない?」と声を掛けますが、皆喜んで応えてくれます。男性外国人社員のうち、10名くらいは奥さんも当社で働いています。最近、地元の病院で子どもを出産した社員が2名います。無事に出産して、赤ちゃんを見せに会社に来てくれると、私としては、孫ができたような気持ちになりますね。このような関わり合いを、他の社員たちも見ているので、私の気持ちが伝わり、同じように自分から話しかけて関わり合いを持ってくれているのは、嬉しいことです。
社内イベント(ドッジボール大会)
社内イベント(バーベキュー)
(栗原)まずこちらから声をかける、ということは大切ですね。大島社長のお人柄もあって、社員が声を掛け合う文化があるのですね。人間関係の作り方は、周りの人がどのようにしているかを見て、これが良いのだなと自分も真似していくものなので、職場の雰囲気の影響は大きいと思います。
(大島)外国人、日本人に限らず、何か困ったことがあれば、相談しやすい雰囲気は大切です。「何か困ったことない?」と社員に声をかけると、「ないですよ、すごく楽しい」と言ってくれて、「何がそんなに楽しいの?」と聞くと、「色んな人と話すのも楽しい、仕事ができることが嬉しい」と言ってくれます。このような声を聞くとすごく嬉しいですね。
私が社長になってやりたかったことの一つが、ドッジボール大会です。男女や年齢関係なくできますし、普段の業務ではあまり顔を合わせない他の工程の社員と、話したり顔を覚えたりするきっかけになるからです。このような交流で人間関係ができていると、仕事で次工程の人等との報連相がしやすくなり、良い循環が生まれます。
(栗原)退職については、どうでしょうか。外国人社員の退職理由として、日本人とは異なる点はありますか。
(大島)当社の外国籍社員の定着は良いほうで、5年以内にやめる人はほとんどいません。以前あった例としては、病気になってしまった時に、母国に帰って治療したいと退職したケースがありました。あとは、結婚をした後、国にいる奥さんが、日本に来たがらなくて、旦那さんの社員が帰国せざるを得なかったケースもあります。奥さんがベトナムで学校の先生や看護師さんなど、手に職を持っている方だったので、それをやめて日本に来ることは難しかったのだろうと思います。子育ても、ベトナムにいればご両親のサポートを得られますが、日本でとなると心配な思いが大きくなるのかもしれません。
一方、ある社員は、子どもが保育園に入れるようになるまで、ベトナムからご両親を呼んで、子どもの世話をしてもらっていた家庭もありました。戸建てで部屋があると、そのようなこともできますね。
ウェルビーイング
(栗原)社員が仕事を続けられるように工夫していること、うまくいっていることはありますか。
(大島)ベトナム出身の社員たちは、入社後3年ほどお金を貯めてから、ベトナムにいる家族を呼び寄せるケースが多いです。家族で生活する上で必要となる家や車の購入の際に、当社では上司がサポートしています。当社の地元の空いている古民家を購入するのですが、上司が必ずついていき、場所や家を見て確認して、不動産屋さんとの交渉や購入手続きに同席します。古民家は高くても800万ほどあれば購入できます。その後、ベトナム人同士で協力して休みの日にリフォームしていますね。中古車を買う時も同様にしています。
インテグレーション
(栗原)耳慣れない言葉ですが、インテグレーションというキーワードもあります。外国人が地域社会に溶け込んで生活することですが、とても大切な視点です。会社の外での生活については、いかがでしょうか。
(大島)家の近所で畑を作っているお爺さんお婆さんに、外国人社員が「この野菜はどうやって作るんですか」と話しかけたことがきっかけで、お爺さんお婆さんが嬉しそうに教えてくれたり、「空いているところで野菜作ってみるか」と言ってもらったりして、そのご夫婦が作った野菜ができると、家の玄関に置いて行ってくれる、という話も聞きました。
(栗原)人間関係が社内だけでなく、地域にまで広がっていきますね。
(大島)地域の方々も、最初にご挨拶に行ったときは、抵抗感があるかなと心配しましたが、とても好意的で、仲良くしてくださっています。関わりを持つことで、自分達のことも理解してもらい、地域のお祭り行事にも誘ってもらえるようになりました。七川祭りという伝統的なお祭りがあるのですが、一昨年初めて、外国人も参加できるようになり、うちの社員が絣の着物を貸してもらって、太鼓をたたいていました。貴重な経験なので、本人もとても喜んでいました。
(栗原)大島社長のお話を伺って、社員が「外国人だから」「日本人だから」ということではなく、社員の視点に立ち、長い時間をかけて、社内の環境づくりに取り組んでこられたことがよく分かりました。働く場があること、自分の仕事に責任を持って誇りを持てること、仕事が楽しいと思えること、私生活が充実していること、どれも大切で幸せなことです。今、改めて社会で注目されている価値観は、大島社長がずっと以前から変わらず、地道に取り組んできたことなのですね。
社内イベント(ボーリング大会)
・留学生の就職支援
第1回「現場から見える課題」
第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
第3回 「仕事ができる人」とは? 対談②
第4回 対談③在留資格の注意点
第5回 対談④キャリア相談とは
第6回 対談⑤留学生の情報源
第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
第10回 対談⑨中小企業のマッチング
第11回 対談⑩製造業の人手不足
第12回 対談⑪外国人の定住
第13回 対談⑫社員視点での職場環境づくり
向学新聞2024年10月号目次>留学生の就職支援 第13回 対談⑫ 社員視点での職場環境づくり
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